>剣城凌Side
「ほんとに、わざわざ隣町まで来てくれるなんて、凌ちゃん好きすぎやろ〜。」
「だって最寄りとか近所のとこ全部売り切れやってんもん。しゃあないやんか〜!」
私の腕には、今日発売されたばっかの一番くじ『癖強パンツマン』のグッズがぎゅうぎゅうに詰まってる。
絶対欲しかって、発売前からずっとチェックしてたんやけど…
やっぱり人気なだけあって、知ってる店は全部完売やってん。
ショックで落ち込みながら帰っとったら、天音が「隣町やったらまだ残ってるかも!」って調べてくれて、、しかも一緒に来てくれてん。
ほんま、めっちゃ優しい。
最高に出来る女やわ。
「ほな、これダブったからあげる。お揃いやで!」
そう言って、C賞のぬいぐるみキーホルダーを差し出す。
「可愛ない〜」とか言いながらも、ちゃんと受け取って鞄につけてくれるあたりが、ほんま憎めんし、可愛いんよな。
こういうとこ、ほんま好きやわ。
「あ、凌ちゃん、ウチそこの薬局でちょっと買いもんしてくるわ!」
「おっけ〜。前で待っとくわ!」
パタパタ小走りで薬局に向かう天音の背中に、なんとなく手を振る。
……で、ふと思い出す。
明日、北信介がお泊まりに来るんやってな。
天音の叔父さんと叔母さんは明日から旅行らし。
つまり、明日はあの2人ひとつ屋根の下ってわけや。
付き合ってからも、ええ感じにラブラブしとるみたいやし、正直私がとやかく言う立場ちゃうって分かってる。
……分かってるけどなぁ。
やっぱ、悔しいわ。
自分が“女”やってことが、ほんま悔しいんよ。
胸の奥でぐるぐる渦巻くこのモヤモヤを、どうにか押し込めたくて。
スマホを取り出して、ロック画面にしてる天音の写真に、そっと人差し指をすべらせる。
――やっぱり、かわええなぁ。
自然と口元が緩んでしもて、さっきまでのざわついた気持ちが、少しずつ落ち着いていった。
この写真を撮ったあの日は珍しく大雨でな。
天音の綺麗な髪が濡れて、しっとりまとわりついてて…
それがまた、めちゃくちゃ色っぽかってん。
思わずシャッター切ってもうたんよなぁ……。
そんな思い出にちょっと浸ってたら、ふと気づいた。
……あれ?
天音、薬局入ってから結構時間経ってへん?
もしかして、何か見つからんのかな。
しゃあないなぁ。とスマホをポケットにしまう。
とりあえず、すれ違わんようにって思って、私は足早にレジの方へ向かった。
その時だった。
ちょうど目の前に心底会いたない奴が薬局から出てきよった。
「っ………北、信介?」
無意識に口から出てもうた。
ほんまは、あいつの名前なんか、口にするだけでムカつくっちゅーのに…。
けど、あの顔が視界に入った瞬間、反射的に呼んでもうた。
「使い方わかる?」
「そういうの、ええって言ってるやろ。」
やり取りは小声やったけど、あたしにはハッキリ聞こえた。
……てか、何してんねんアイツ、
よりによってこんなとこで……!
それに、その隣の女…誰や。
妙に距離近いし、何でお前顔赤いねん。
は? なんなん?
……まさか、別の女?
……天音が、おるんに?
「なっ……」
ほんま、嘘やろ、なんやあれ。
どんどん遠ざかっていく2人の背中。
じっと見ていれば、女の方が北信介の腕にべったり絡みついてる。
それだけやない。
問題は、アイツの顔や。
……何なんやその顔。
嫌がるでもなく、楽しそうに笑うて……あの、アホが。
気づけば拳が勝手に握りしめられてた。
怒りという感情は勿論大きくある。
けど、そんなことより……!
「っ……天音!」
脳裏に浮かぶのは、勿論天音だ。
……あかん、これはあかん。
めちゃくちゃ、イヤな予感がする。
大きめの薬局の中を、私は足早に歩き回った。
天音。
……天音。
どこ行ったんや。
「……天音っ!!」
ヘアケア商品がずらっと並ぶ一角。
そこで、小さな背中を見つけた。
私の声に、天音の肩がピクリと跳ねたんが分かった。
「天音……」
そっと、その華奢な肩に手を添えた。
すると天音は、少し間を置いて、ゆっくりと振り返った。
「ぁ…ごめん、凌ちゃん。コレが見つからへんくて…」
そう言うて、貼りつけたみたいな笑顔でスマホの画面を差し出してきた。
けど、私が見てたんはスマホちゃう。
天音の、どっか無理してるその笑顔の方やった。
……ちゃう。
そうやないやろ、天音。
「天音、今——」
「急いでへんし、帰ろっか!最寄りの薬局なら売り場わかるし!」
私の言葉を食い気味に遮って、天音は足早に出口の方へ歩き出した。
スタスタと、私の言葉も待たんと背中向けて。
……私は一瞬で全てを察してしもた。
天音はさっき私が見たあの光景を——
きっと、同じように見てもうたんや。
ギュッと握った拳に、爪がちょっと食い込んだ。
痛い。
でもそれ以上に胸の奥がズキズキする。
……こんなにムカついたん、いつぶりやろか。
北信介。
私はな、
天音にあんな顔させるために——
お前に譲ったつもりなんて、一ミリもないからな。
今度、凌ちゃんとのお話も書きたい。
というか、書く。笑