「わ、たし…信介のこと、好きやねん。」
あぁ、それはもう分かっとる。
さっきも聞いたし、付き合ってから毎日感じてる。
「信介のこと、好きになってから……ずっと、信介しか見てへん…っ」
それもよう分かる。
付き合ってからの天音の想いは、まっすぐすぎるくらい伝わってきてた。
両想いやったこと、ほんまに嬉しかった。
「せやから…っ…」
でもな、何でやろ。
天音が今、こんなにも泣きながら言うてる理由が分からへん。
頬をつたって落ちる涙が、ポタポタ俺の胸に落ちてきて。
そんなに好きやって言ってくれてるのに、なんでこんな悲しそうな顔してるんや。
俺はそっと、天音の頬に手を伸ばした。
涙で濡れたその頬に、指先が触れた瞬間ーー
「信介…」
天音が、震える声で続きを口にした。
「2番でも、ええっ…信介が……それでも、私と一緒に……おってくれるなら」
……2番でも、ええ。
その言葉が、頭の中でゆっくりと何度も反響した。
……2番でもええ、ってなんや。
一瞬、何を言われたんか分からへんかった。
なんやそれ。
なんで、天音がそんなこと言うんや。
誰と比べてんねん。
誰が、天音より上なんや。
……いや、ちゃう。そんなんおかしいやろ。
天音が2番?
そんなん、あり得へん。
俺にとって、天音は最初からずっと特別で、唯一で、たった一人の――
「せやから、しんすけ……私の、初めて……もろて……っ」
その瞬間、胸ん中がギュッて締め付けられた。
唖然として動けんままの俺を、天音がそっと押した。
背中がふわりとベッドに沈む。
いつの間にか短パンを脱いでおり、上下下着一枚だけの天音が俺に跨ってきた。
薄暗い部屋やのに、天音の肌は眩しいくらいに白うて……なんでか、よう見えてまう。
上下おそろいの黒レースの下着が、なんちゅうか……いやらしさよりも、色気ってもんを際立たせとって。
こんな状況やのに、気づいたら下半身は勝手に反応してまう。
……けどな、頭の中は妙に冷静やった。
「天音……ごめん。さっきから、ほんま、何言うてんのか分からん。」
「っ…う、うそ…」
「嘘ちゃう。なぁ、天音がどうしたら2番になるんや。」
俺の胸の上に置かれてた天音の手が、きゅっと握られた。
ずっと涙を流しとるその顔。
俺はそっと手を伸ばして、両頬を包み込むように撫でた。
よう見たら、目尻が真っ赤に腫れとる。
この泣き腫らした感じ…今泣いたもんちゃうな。
……いつからや、天音。
昨日から、もしかしたらそれより前から、ずっと1人で悩んで泣いとったんか。
あのメッセージアプリでは、そんな素振りひとつも見せへんかったくせに…。
横になっとった体をゆっくり起こして、天音の背中にそっと手を回す。
ふわっと香った天音のいつもの匂い。
けど、なんでやろな…今日だけは、それが落ち着くどころか、胸の奥がざわついた。
「天音。俺は、ほんまに天音が好きや。これはな、一生変わらへん。……俺にとって天音は、どんなことがあっても一番大切で、一番好きな人や。」
そもそも誰かと比べるとか、そんな考えすらなかった。
俺の目に映るのは、最初から天音だけや。
「せやけど……」
口ごもりながら言葉を探す天音。
自分のことを“二番”って思ったんやったら、何か理由があるはずや。
せやけど、それを言うてくれへんと、俺にはどうにもわからん。
そっと天音から体を離して、その細い肩をやさしく包む。
涙はもう止まっとるけど、その目はまだ…悲しいまんまだった。
「なんで、そんなふうに思ったんか。……ちゃんと理由、話してくれんとわからへん。」
そう問いかけた俺の胸の中には、不安と疑問が入り混じっていた。
「っ………き、昨日、見たの……。」
おずおずと話し始める天音に、昨日の記憶を辿る。
昨日、俺は部活のあと薬局に行って……
「信介が……薬局で……女の人と……ひ、避妊具……見て、た。」
その言葉に、ピクッと眉が動いた。
心臓がドクン、と一つ強く鳴る。
正直に言おう。
……最悪や。
……そういうことか。
思わず「あ〜……」と情けない声が漏れて、俺は顔を上に向けた。
ほんま、なんてことしてもうたんや俺。
「それで……ごめんなさい、気になって……バッグの、その……箱が開いたやつ、見つけちゃって……」
天音の言葉に、昨日の自分の行動がありありとフラッシュバックした。
……そや、練習のために開けた箱、パッケージのままバッグに入れて――そのままやったんか。
何を焦っとったんや。
何が“もしもの備え”や。
小さく息をついて、天音の背中にもう一度腕を回した。
さっきよりもちょっとだけ強く、ぎゅっと抱きしめる。
すると、天音の香りがふわっと鼻先をくすぐって――
今度はその匂いに、心の奥からじんわり安心が広がっていった。
「ごめんな、天音。そら勘違いもするわ……ちょっと待っててくれ。」
ぽつりと呟いてから、名残惜しいが俺の上にいた天音を横に下ろした。
ちゃんと説明せなあかん。
俺は立ち上がり、急いでリビングに置きっぱなしにしてたスマホを取りに行った。
「……これや。」
戻ってきてすぐ、スマホの写真フォルダを開いて、目当ての写真を見つけると、天音にそっと画面を向けた。
「……あっ、そ、その人……」
怪訝そうな顔して画面を見つめる天音を見てたら、なんや可愛くて、思わず吹き出してもうた。
「天音……その人な、俺の姉ちゃんや。」
そう言いながら、写真の中で俺と肩組んでる姉と、目の前の俺とを交互に見比べてる天音が、またおもろい。
「……え?えっ?ね、姉ちゃん……?ほんまに……?」
「ほんまや。あと、こっちが弟。……うちは三人兄弟なんや。」
軽く肩をすくめながら、画面をスライドして弟の写真も見せる。
天音は、自分が勘違いしてたことに気づいたんやろな。
ボッと顔を真っ赤にして、近くにあった毛布をバッと引っ張って、そこに身ぃ隠してもうた。
「そ、それでな……あのバッグの中の、アレは……昨日、ちょっと……その、つける練習で……。」
……そこまで言うたら、俺も流石に恥ずかしゅうなってもうて、声が尻すぼみになってしもた。
いや、でもな。
冷静に考えたら、姉ちゃんと避妊具選んで買うてるとか、まぁまぁおかしな話やろ。
俺がちゃんと強く追い返せばよかったんや。
ほんま、そこは俺の落ち度や。
「天音、……なぁ、出てきて欲しいねん。俺が悪かったんや、ちゃんと謝らせて欲しい」
「〜〜〜っ……」
毛布の中から、なんとも言えん呻き声が聞こえてきたかと思ったら、そっと顔だけ覗かせた天音の顔は……
……やっぱり真っ赤っかで、まるで茹で上がったタコみたいやった。
その頭をそっと撫でながら、俺は昨日なんであんなことになったのか、一つひとつちゃんと説明した。
天音はずっと顔を真っ赤にしたまま、黙ってうなずいたり、時々小さな声で相槌打ったりしてたけど、話が終わる頃には、蚊の鳴くような声で「……ごめんなさい」って言うてきた。
「天音が謝ることなんか、これっぽっちもあらへん。全部、俺の詰めの甘さや。」
フルフルと首を振って、納得いかない顔をしてた。
「俺が、天音のこと1番やってのは、嘘でもなんでもあらへんって、わかったか?」
そう言いながら、毛布の隙間から手を滑り込ませて、そっと天音を胸元に引き寄せた。
ほんで、気づく。
俺は上半身裸で、天音は……下着姿やろ。
お互いの肌がぴたっと触れて、じんわりとした熱が伝わってきた。
その熱にドキッとしつつも、どこか安心した気持ちにもなる。
けどまぁ、あまりに近すぎて……
嬉しいけど、もどかしい。
ちょっとだけ甘くて苦しい、そんな空気が部屋に流れ始めたのに気づく。
「信介……好き。私以外、見んといてほしい…。」
そう言うた天音の顔は、ほんまに綺麗で。
「……当たり前や。」
そっと手を伸ばして、天音のぷっくりした可愛い唇に、やさしくキスを落とす。
軽く触れるだけの、ぬくもりを確かめるみたいなキス。
俺にとって、天音はほんまに特別で。
他の誰にも、こんな気持ちになったことなんてあらへん。
ほんま、こんな女神様みたいな子にまっすぐ想ってもらえるなんて——
俺は、世界で一番の幸せ者やと思う。
次回から徐々にR指定になっていくと思うので、閲覧注意です><