「おい、北信介。」
「……なん、ですか。」
その圧に、思わず敬語が出てしもた。
なんで俺、今、剣城さんに壁ドンされてんねん。
確かさっきまで部長会やったやろ。
ダラダラと今年の部費のことやら、活動報告やらしてて、終わってすぐ部活行こうとしただけのはずや。
せやのに気づいたら、誰もおらんくなってて。
...気づいたら、剣城さんが鬼の形相でこっち来てて。
「お前、悪いことした自覚あるんか。」
なんとなく、俺に何の用事かは気づいとる。
多分、あの自習時間の後に教室に戻らず早退してしもた女神様のことやと思う。
「いや…悪い。」
素直に謝る俺に対して、剣城さんは目を細めた。
「悪い?お前、それだけで済むと思っとんのか」
そう言うて、見せられたスマホの画面。
トーク画面の一番上に「天音」って名前があって、
一番下には女神様から来たんやろな、文章が光ってる。
”もう学校行かれへん…“
息を呑んだ。
そんなに女神様にとってショックやったんか?
確かにな、みんなの前であんなこと言うてもうて、悪かったとは思ってる。
お昼休みの間にあの話、もう学年中に広まって、廊下ですれ違う他のクラスのやつらにも揶揄われたりもした。
けど、女神様からしたら俺の告白なんて、日常の中のひとつに過ぎへんのちゃうか?
どうせこの騒動も、明日、明後日には収まるやろうに…。
なのに、なんでや。
「お前みたいな無神経な奴、死ぬほど嫌いや。天音のこと好きなんはええけど、その感情で天音に迷惑かけんなよ。調子乗ってたら、本気で潰すからな。」
剣城さんがどんだけ女神様を大事に思ってるか、その言葉と顔見たらよう分かる。
でもな、俺も隣で、どの男子よりも近くで彼女を見てきて、ちゃんと大事に思ってる。
叶わへんって分かってても、好きでおることだけは変えられへん事実や。
「…みんなの前で変なこと言うてもうたのは悪いと思っとる。けどな、それでも俺は…天音のことが誰よりも好きやって気持ちは負けへん」
ああ、なんやこれ。
初めて自分の口から出たわ。
俺は、女神様が…天音が好きや。
あの可愛い笑顔に、黒絹のふわふわした髪。
ころっとした丸い大きな瞳も、俺を呼ぶ玉を転がす声も…全部、好きや。
誰にも渡したない。
「.......ほんま、何で。お前なんやろな。」
「はっ?」
剣城さんはそれっきり何も言わんと、スタスタと教室を出て行った。
その背中を見送る余裕もなくて、気づいたらズルズルと壁に背中預けて、そのまましゃがみ込んでしもた。
――学校行かれへん、か。
女神様が、いや、天音が明日学校に来ぃへんかもしれへん。
いや、明日だけやない。
もしかしたらこのまま、ずっと来んくなるかもしれん。
……そんなの、あかんやろ。
それだけは、絶対にあかん。
俺が、ちゃんと謝らな。
そんで、この曖昧なまま伝わってしもた気持ちも――
ちゃんと、ちゃんと、言葉にして伝えなな。
ポケットからスマホを取り出して、大耳に「今日は部活休む」って送った。
人生で初めてや、部活を自分の意思で休むなんて。
でも、今はそれよりも行かなあかん場所がある。
やらなあかんことがある。
深呼吸してから、ホーム画面に戻って、お気に入りにピン留めしていた天音のトークをタップする。
部会って、いつやってたか時期覚えてないけど
小さいことはあまり気にせずお願いします。