present



08


「信介」

「っ……天音。」


夕方の空はまだ明るいけど、風はちょっと冷たい。



部活も、全部放っぽって。
今ここにおる理由はただ一つ。

会って、ちゃんと話したくて、謝りたかったからや。



「ごめんね、この公園遠かったでしょ。」



天音はふわっと笑いながらそう言ったけど、その目はどこかまだ不安げやった。


メッセージ送って、「会いたい」って、それだけ伝えたら、すぐに返事が来てん。
待ち合わせ場所は、天音の最寄り駅から少し歩いたところにある、小さな公園。


俺は約束の時間より30分も早く着いてしもた。
せやけど、その10分後にはもう天音が来た。


午後に早退してたからか、パーカーに短パンっちゅう、部屋着みたいな格好やって。
こんな時やのに、見慣れない姿に一瞬心臓が跳ねたわ。



あかん、可愛すぎる。



ここに来るまでに、その格好見たやつ、何人おるんやろって気になってもうて…
自分でも、ああ、ほんまに好きなんやなって改めて思う。



風が吹いて、天音の髪が揺れた。
その一瞬すら、目が離せへん。




「天音。ごめんな。今日……嫌やったよな、皆の前であんな事言われて。...ほんま、ごめん。」

俺は深々と頭を下げた。



あの時、どんな気持ちで教室を出ていったんかって考えると、胸がギュッと締め付けられる。


きっと今、天音は悲しい顔してるんちゃうか。

怖くて顔なんて見られへんかった。




でも——






「信介、顔あげて。」



その声は、めっちゃ優しかった。


俺は言われた通り、ゆっくりと顔をあげた。





そこには、真っ直ぐにちゃんと俺を見つめてる天音の姿があった。


あぁ、俺の想像力は、人間以下やったんかもしれへん。


天音がどうして“女神様”なんて呼ばれとるか、すっかり忘れてたんや。


目の前の女神様は声色通り、ほんまに優しい顔で立っとった。
まるで、全部許すよって言ってくれてるような、そんな顔やった。


「……ああいうの、慣れてるっていうか……うん、慣れてるから大丈夫やで。ただ、信介やったから……お、驚いてな。」


「……でも、“学校行きたくない”って思うほど、嫌やったんやろ?」



そう問い返すと、天音がポッと顔を赤くした——


「えっ……なん、なんでそれ……まさか、凌ちゃんに聞いたん?」



思わず眉ひそめた。
さっきからなんや、反応が妙に優しすぎるというか……
ほんまに嫌やったんか、ちょっとわからんようになってきた。



……気ぃ遣わせてるんやろか。




「そ、それはな……ちょっとテンパってしもて!それに、その……信介が、うちのこと好きなんかもって思ったら、明日顔合わせるん恥ずかしなって……それで……」



ちっちゃい声で絞り出されている言葉。
つまり、あのメッセージはテンパって送っただけで、本気で学校来たくないって思ったわけやない……てことか。



そらそうやんな。
普通、あんなことのあとやったら、気まずくもなるわ。



……やったらもう、ハッキリ伝えて、ハッキリフラれてまおうか。

それがきっと、お互いのためになるかもしれへん。

そう思って、深く息を吸い込んだ。





「天音。……俺は、天音のことが好きや。」






思ったよりもすっと出たその言葉に、自分でもちょっと驚いた。
ずっと胸につっかえてたもんが、スッと落ちたような、そんな感じや。



ほな、ハッキリ振ってくれてええ。



それで、できることなら明日からまた、友達として普通に笑い合えたら……

それだけで、俺は十分や。





「…す…き…。」





「ん?」









「わ、私も…信介が、す、好き…です。」





……ん?


いやちょっと待て、今なんて?


俺、いま幻聴聞こえてんのか?
目の前の天音、顔真っ赤やし、ついに幻覚まで見え出したんか…?




「信介…好き。ほんまに...めっちゃ、大好きやねん」




……いや、ほんまに待ってくれ。


なんやこの手の温もり。
俺の手、天音が握ってくれてるやん…。

これ、夢でも幻でもなく…ほんまの、現実か?


ボッと自分の顔が、まるで燃えてるみたいやった。
よく分からへんけど、顔だけやなくて全身が熱なってる。


俺は言葉にできひん言葉を漏らしてしまった。


「は、その……なん、えっと……俺を……? 好き……?」


すると、天音が可愛らしさ満点の声で言うた。





「……何回も、言わせんといてや。」

目の前にいるのは、やっぱり女神様や。
その恥じらう仕草、まるで桃の花が咲いてるみたいやった。


ああ、ほんまに…なんて可愛いんやろか。











「天音っ……結婚しようっ……」






すぐに、天音がびっくりした顔で反応した。

「え、お、お付き合いじゃなくて? って、え!? 信介!?泣いてるの!?」



こうしてーー

俺の、胸ん中にずっとあった、小さな蕾は女神様のおかげで可愛らしい花を咲かせた。
不器用な俺でも、ちゃんと大事に育てていけたらええなって、そう思うんや。





タイトルの「一華開五葉」とは、花が一輪咲けば、五枚の花びらが開くように、ひとつ成せば自然とその結果は広がっていくもの。
そんな意味があり、今回のお話で北くんの花が咲きました。
ので、やっとイチャラブ話書こうと思います笑







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