「信介」
「っ……天音。」
夕方の空はまだ明るいけど、風はちょっと冷たい。
部活も、全部放っぽって。
今ここにおる理由はただ一つ。
会って、ちゃんと話したくて、謝りたかったからや。
「ごめんね、この公園遠かったでしょ。」
天音はふわっと笑いながらそう言ったけど、その目はどこかまだ不安げやった。
メッセージ送って、「会いたい」って、それだけ伝えたら、すぐに返事が来てん。
待ち合わせ場所は、天音の最寄り駅から少し歩いたところにある、小さな公園。
俺は約束の時間より30分も早く着いてしもた。
せやけど、その10分後にはもう天音が来た。
午後に早退してたからか、パーカーに短パンっちゅう、部屋着みたいな格好やって。
こんな時やのに、見慣れない姿に一瞬心臓が跳ねたわ。
あかん、可愛すぎる。
ここに来るまでに、その格好見たやつ、何人おるんやろって気になってもうて…
自分でも、ああ、ほんまに好きなんやなって改めて思う。
風が吹いて、天音の髪が揺れた。
その一瞬すら、目が離せへん。
「天音。ごめんな。今日……嫌やったよな、皆の前であんな事言われて。...ほんま、ごめん。」
俺は深々と頭を下げた。
あの時、どんな気持ちで教室を出ていったんかって考えると、胸がギュッと締め付けられる。
きっと今、天音は悲しい顔してるんちゃうか。
怖くて顔なんて見られへんかった。
でも——
「信介、顔あげて。」
その声は、めっちゃ優しかった。
俺は言われた通り、ゆっくりと顔をあげた。
そこには、真っ直ぐにちゃんと俺を見つめてる天音の姿があった。
あぁ、俺の想像力は、人間以下やったんかもしれへん。
天音がどうして“女神様”なんて呼ばれとるか、すっかり忘れてたんや。
目の前の女神様は声色通り、ほんまに優しい顔で立っとった。
まるで、全部許すよって言ってくれてるような、そんな顔やった。
「……ああいうの、慣れてるっていうか……うん、慣れてるから大丈夫やで。ただ、信介やったから……お、驚いてな。」
「……でも、“学校行きたくない”って思うほど、嫌やったんやろ?」
そう問い返すと、天音がポッと顔を赤くした——
「えっ……なん、なんでそれ……まさか、凌ちゃんに聞いたん?」
思わず眉ひそめた。
さっきからなんや、反応が妙に優しすぎるというか……
ほんまに嫌やったんか、ちょっとわからんようになってきた。
……気ぃ遣わせてるんやろか。
「そ、それはな……ちょっとテンパってしもて!それに、その……信介が、うちのこと好きなんかもって思ったら、明日顔合わせるん恥ずかしなって……それで……」
ちっちゃい声で絞り出されている言葉。
つまり、あのメッセージはテンパって送っただけで、本気で学校来たくないって思ったわけやない……てことか。
そらそうやんな。
普通、あんなことのあとやったら、気まずくもなるわ。
……やったらもう、ハッキリ伝えて、ハッキリフラれてまおうか。
それがきっと、お互いのためになるかもしれへん。
そう思って、深く息を吸い込んだ。
「天音。……俺は、天音のことが好きや。」
思ったよりもすっと出たその言葉に、自分でもちょっと驚いた。
ずっと胸につっかえてたもんが、スッと落ちたような、そんな感じや。
ほな、ハッキリ振ってくれてええ。
それで、できることなら明日からまた、友達として普通に笑い合えたら……
それだけで、俺は十分や。
「…す…き…。」
「ん?」
「わ、私も…信介が、す、好き…です。」
……ん?
いやちょっと待て、今なんて?
俺、いま幻聴聞こえてんのか?
目の前の天音、顔真っ赤やし、ついに幻覚まで見え出したんか…?
「信介…好き。ほんまに...めっちゃ、大好きやねん」
……いや、ほんまに待ってくれ。
なんやこの手の温もり。
俺の手、天音が握ってくれてるやん…。
これ、夢でも幻でもなく…ほんまの、現実か?
ボッと自分の顔が、まるで燃えてるみたいやった。
よく分からへんけど、顔だけやなくて全身が熱なってる。
俺は言葉にできひん言葉を漏らしてしまった。
「は、その……なん、えっと……俺を……? 好き……?」
すると、天音が可愛らしさ満点の声で言うた。
「……何回も、言わせんといてや。」
目の前にいるのは、やっぱり女神様や。
その恥じらう仕草、まるで桃の花が咲いてるみたいやった。
ああ、ほんまに…なんて可愛いんやろか。
「天音っ……結婚しようっ……」
すぐに、天音がびっくりした顔で反応した。
「え、お、お付き合いじゃなくて? って、え!? 信介!?泣いてるの!?」
こうしてーー
俺の、胸ん中にずっとあった、小さな蕾は女神様のおかげで可愛らしい花を咲かせた。
不器用な俺でも、ちゃんと大事に育てていけたらええなって、そう思うんや。
タイトルの「一華開五葉」とは、花が一輪咲けば、五枚の花びらが開くように、ひとつ成せば自然とその結果は広がっていくもの。
そんな意味があり、今回のお話で北くんの花が咲きました。
ので、やっとイチャラブ話書こうと思います笑