「それでね、とろろきくんとかっちゃんってば、どっか行っちゃったの!だから花が、きりしまと一緒に二人を探すに出たの!」
「ふむふむ、なるほどなぁ。やから切島くん達授業遅れて来たんか。(探すに出た..噛んどるなぁ。)」
ほかほかと湯気が漂う女子風呂に、昨日と同じく子供のキャッキャと楽しそうな声が響いている。
朝1階に降りた時、既に花ちゃん達の姿はなくて、ちょっと残念に思って登校すれば、げっそりとした轟くんと切島くんが少し遅れて教室にやってきた。
何事かと思ったけど、明らかに子供二人に振り回されたんやろなぁと、皆が一瞬で理解した。
「あ!ちゃこ、アワでネコさんやって〜!」
「え、ネコさん?」
「麗日、多分こうだよ、こう!」
後ろから花ちゃんの髪をわしゃわしゃ洗っていれば、突然のネコさん。
よく分からず首を傾げれば、隣から救いの手があり、少し横にずれる。
「わぁ!ネコさーん!他も他も!」
「ほれほれ、これはなーんだ!」
「えー!リボン!みな、すごぉーい!!」
なるほど、泡で猫耳作ったり、泡まみれの髪の毛でリボンを作れば子供は喜ぶのか。
なんや、勉強になるわぁ。と楽しそうな二人を見て思わず感心してしまう。
「花さん、早くお風呂を済ませないとドラ⚪︎もん?というテレビ番組が始まってしまいますわ。」
「あぁ!そうやった!!ほら、花ちゃん泡流すから、目閉じててな〜。」
「はーい!」
..
「ちゃこ、おぶちゃありがと!」
お風呂を済ませ、いつも丁寧にケアをしているのを見ているからこそ、入念にヘアオイルを塗ってラベンダーの髪を乾かしてあげた。
花ちゃんの髪は昔から綺麗なんやなぁ。
サラサラのフワフワで手触りが最高やった。
「どういたしまして、気持ちよかった?」
「うん!パパと違って、ちゃこのおててはフワフワしてるから、きもちかった!...あ!ドララ!ちゃこぉ、行っても良い?」
「うん、えぇよ!でも走っちゃダメやからね?」
「はーい」と元気な返事をしながら繋いでいた手が解かれた。
テテテッと小さな歩幅で談話室の方へ向かう彼女の後を追えば、ソファに腰掛けている見慣れたクラスメイト達の後ろ姿があった。
その中の一つは、明らかに頭の位置が周りより低く、花ちゃんはその隣に座ったようだ。
ラベンダー色とクリーム色が並んで、どこか楽しそうに揺れる二つの頭を見て思わず笑みが溢れる。
子供やなぁ。
「あ、麗日さん。花ちゃんのお風呂大丈夫だった?」
「デクくん。大丈夫やったよ!今日も楽しそうにお風呂入ってくれて良かったわぁ。」
「そっか、なら良かったよ。こっちも今日はかっちゃんが大人しくてさ、しかも自分で洗うって言うから驚いちゃった。」
「え、そうなん!?あのくらいの時、一人でお風呂なんか出来てたかなぁ…?さすが爆豪くんや…」
言いながらソファの方にいる爆豪くんに視線を向ければ、なぜかバチリと視線が交差した。
「え?」
赤い鋭い目が、私とデクくんを睨むように向けられており、無意識に体が硬直する。
それは隣のデクくんも同じだった様で、ピリッとした空気感が伝わってきた。
「かっちゃん、もしかして……。」
ぽそっと聞こえた呟きに、爆豪くんの視線から逃れようと顔をそちらへ向けようとした時だった。
「ねぇかっちゃん!今の見てた!?花もあれ欲しい!」
花ちゃんの興奮した声が彼の視線を持っていってくれた。
まるで蛇に睨まれた気分やったな。
ホッと胸を撫で下ろし、改めてデクくんへ顔を向ければいつもの様にブツブツと忙しなく口を動かしていた。
「デクくん、大丈夫?」
「えっ!?あっ…うん!ご、ごめんね。大丈夫…。」
そうは言うが、明らかにまだ何かを考えている様子に首を傾げた。
デクくんが気になること…。
爆豪くんのあの視線、まるで余計な詮索をするなって言われている様に感じたけど、それのことやろうか。
顔の向きはそのままに、視線だけチラッと爆豪くんの方へ向ける。
もうこちらは見ておらず、花ちゃんと並んでTVを見ているようだった。
何やったんやろ…。
デクくんが何を考えているのかも気になるし、爆豪くんの意味深な視線も気になる。
でも深入りするのは何だか野暮な気がしてならんのよね…。
うーん。とデクくんに聞こうか悩んでいると、ぞろぞろと女子風呂から皆が出てきた。
「あ、ねぇ緑谷!ちょうど聞きたい事あったんだよね!」
「え、ぼ、僕?」
「そうそう。花って、もしかして父子家庭なの?パパの話ばっかりで、ママの事聞かないなぁって思ってさ。」
「あんた、それ聞かない方がいいってさっき話してたじゃん…。」
三奈ちゃんの急なセンシティブな質問に一瞬驚くが、それを咎める響香ちゃんに賛同するようにうんうんと頷く。
けど確かに言われてみれば、何となく気にはなっていた。
大きくなった花ちゃんから家族の話自体あまり聞いた事がなかったから、何となくタブーなのかと思ってたけど、小さくなった花ちゃんはよくパパの話をしてくれる。
もしかして、花ちゃんのパパもママはもう…。
「あ、いや…。別に隠してないって聞いてるし、言っていいと思うんだけど。…一応父子家庭ではない、かな。」
歯切れの悪い言い方に一同が首を傾げた。
「その、花ちゃんのお母さん、ずっと寝たきりなんだよ。いつ目を覚すかわからないって言われて、もう14年くらいじゃないかな。だから僕も直接会ったことがないんだよね。」
14年…。
単純に計算しても、花ちゃんが1歳の時からということだろう。
その時からずっとお父さんが1人で花ちゃんの面倒を見て来ていると言うなら、お母さんの話を聞かないのは仕方がない事なのかもしれない…。
デクくんは言っても大丈夫って言ってたけど、結構デリケートな話なんじゃないかと勝手に聞いてしまった事に罪悪感を覚える。
「…それは、なにかご病気で、ですか?」
「いや、それが、僕も詳しくは分からないんだよね。花ちゃんは何も話してくれないし、何となく小さい時からお母さんの話をするのはタブーだったから。…もし知ってるとしたら、僕より一緒にいる事が多かったかっちゃんじゃないかな。」
皆がソファの方にいる爆豪くんに自然と目を向けた。
さっきのことがあったから、私はそちらに視線を向けられなかったけど、何となく今はあの赤い視線がこちらに向いていない事は分かった。
「あー、ごめん。私から聞いといてあれだけど、その話は聞かなかった事にしておくよ。…チビ花見たら、申し訳なくなっちゃった。」
ヘラっと笑った三奈ちゃんに、皆それぞれ頷いており、意見が一致した。
デクくんも眉をハの字にして「そうだね。僕、余計な事話しちゃった。」と言うので、それとなく声をかけてその場はお開きになった。
それからは部屋に戻る人も入れば、残って皆でTVを見たり、談笑したり、それぞれの時間を過ごした。
「花、歯磨きしたら、もう寝る時間だ。」
「うん!とろろきくん、今日もいっしょに寝てくれるの?」
「あぁ。今日まで俺が当番だからな。まぁ、花さえよければ、明日も明後日も俺と一緒で構わないぞ。」
「ちょっと轟くん、それは話が違うよね?」
轟くんとデクくんのお笑いみたいなやり取りに皆で笑っていれば、花ちゃんが私の元に来た。
ふわっと香ったヘアオイルの良い香りに、柔らかく動く綺麗な髪を見て、さっき丁寧にヘアケアして良かったぁと心の中で呟く。
「ちゃこ、お水飲みたい。」
「あ、お水?ちょっと待っててな〜。」
そう立ち上がってキッチンの冷蔵庫を漁りに行く。
未開封の天然水があったはず。
そうパカっと冷蔵庫を開ければ、着いてきたのか足元の方で人の気配がした。
「はい、お水やで。」
そうペットボトルの蓋を開けて、本体を差し出す。
けど、その手は途中でピタッと動かなくなった。
だって、そこに居たのは花ちゃんではなくて――。
「おい。無駄な詮索してんじゃねぇぞ丸顔。デクと他のやつにも言っとけや。」
「へ?」
ゆらっと揺れた赤色に、持っていたペットボトルを落としそうになる。
驚いて固まる私を他所に、さっと背を向けて歩いて行く彼は確かに幼稚園児の背丈で…。
でも一瞬私の目には大きくなった同級生の彼が見えていた。
――かっちゃん、もしかして……。
「っ!!」
え、デクくん、そう言うこと?
気づけば私の足はデクくんの方へ向いていた。
あえて、色んな人の視点で書く様にしてるんですけどお茶子は難しいって思ってしまった。笑