※爆豪と轟の視点切り替えがあります。
俺が思うに、花との関係は――幼馴染以上、恋人未満のセフレだ。
複雑といえば複雑だが、俺は昔からずっとこいつしか見てねぇし、正直女は一生こいつだけ知っていればいいと思ってる。
だから中学の頃も、高校に入ってからも、邪魔がつかねぇように牽制してきた。
特に雄英入ってからは、わざと周りにアピールしてた。
「花は俺のもんだ」って。
それでも──
半分野郎には、まっったく伝わってなかったらしい。
昨日の花の言葉を信じるなら、今の時点であいつらが付き合う確率は0%だ。
けど、あの「現状は」って含みある言い方。
……気に食わねぇ。
“今後はあり得る”ってことか?
ふざけんなよ、マジで。
バキィッ。
手元のペンが折れる鈍い音がして、俺はようやく力の入りすぎた指を見下ろした。
けど、そんなことどうでもいい。
今はどうやって花とあいつを接触させねぇか、それしか考えてねぇ。
休み時間のたびに花の隣をキープして、睨みもきかせた。
けど、半分野郎はまったく動じる気配なし。
余計、俺の神経はすり減ってく。
花にも「うざい」とか言われて、血管がブチ切れる寸前だった。
けど、今日一日、俺の働きもあってか、奴は花に近づけなかった。
──だから最後の最後で油断した。
放課後。
花は日直だったから、どうせ日誌書いてから帰ると思ってた。
俺はちょっとトイレに行っただけ。
ほんの数分だった。
教室に戻ると、花の姿もカバンもねぇ。
半分野郎もいねぇ。
女子どもが窓際に集まって、何やら騒いでやがる。
その光景に、嫌な予感がした。
視線を巡らせれば、目が合ったのはデク。
一瞬ビクッとして、そっぽ向きやがった。
──最悪だ。
「……チッ、クソが。」
ドカドカと足音を鳴らして、窓際へ向かう。
「……あ、出てきた!」
「えっ、あの2人並んで歩いてるじゃん! レア〜!」
女どもが騒ぐ中、視線の先を見る。
その瞬間、俺の中で何かが爆ぜた。
「っ〜〜〜……クソが!!!」
噛み締めた奥歯が痛ぇくらい力が入った。
何やってんだよ、花……!
・
「へぇ〜、轟くんって推薦なんだ。頭いいんだね!」
「まぁ……勉強は、嫌いじゃねぇから。」
今日一日、天乃の近くには常に爆豪がいた。
あれだけ露骨に睨まれてれば、こっちもタイミングが掴めない。
だから俺は隙を待っていた。
放課後、爆豪が教室を出た瞬間だ。
俺はその隙を逃さず、天乃に声をかける。
「……天乃。一緒に帰らないか?」
言った瞬間、周囲の視線がチラチラと集まるのがわかった。
正直、居心地は悪い。
断られるかもしれない、って不安もあった。
けど、それでも動かないわけにはいかなかった。
天乃は俺を見つめたまま、ちょっとだけ首を傾げる。
「んー……いいけど、今日、日直で日誌書かないとなんだよね。」
これはやんわり断られているのか...
表情から天乃の意思が読み取れず、返答に迷っていた矢先――
「#nameさん。日誌は私がやっておきますわ!」
「うんうん! 今日なんかめっちゃ日誌書きたい気分だったんだよね〜!」
どこからか現れた八百万と葉隠が、突然助け船を出してくれた。
2人が来たことで、パァっと天乃が笑顔になる。
こんなに至近距離でその笑顔を見たのは初めてで、思わず呼吸を忘れそうになった。
「え〜、なにそれ!ありがと〜!でも何も奢らないからね!」
「そんな下心ありませんわ!」
「ははっ! いいから早く帰りなって〜!」
天乃がいると、その空間がいつだって明るくなる。
俺にはないものを、彼女は自然に持ってる。
だからなのか……俺には少し目の前の空気が眩しすぎて…。
思わず一歩、後ろに下がりかけた。
けど。
小さな手が、俺の手を掴んだ。
「じゃ、轟くん。帰ろっか。」
まっすぐ俺に向けられた笑顔に、今度こそ呼吸が止まった。
手から伝わる体温が、じんわりと胸に染み込んでいくのを感じた。
手を繋いだのはその一瞬だったけど、隣で歩く彼女を見ていると、まだ繋いでいるような変な感覚に陥る。
「私も成績悪いわけじゃなかったけど、推薦なんて話、ミジンコもなかったな〜。」
何気ない会話。
それだけで、なぜか心が軽くなる。
こんなふうに話すのは、これが初めてだ。
俺なんかにも、ちゃんと向き合ってくれている──
そう思えた。
だから、完全に不意を突かれた。
「あ、そうそう。昨日の告白の返事なんだけど……付き合うとか、無理かな〜。」
「……え?」
言葉が、脳に届く前に足が止まった。
天乃は数歩先で振り返って、「どしたの?」と首を傾げる。
どうしてそんな普通に会話していた流れで告白の返事をするんだ。
しかも今の、フラれた……?
いや、まさか。
考えすぎて幻聴が聞こえたのか?
だって今、推薦の話してたよな……。
「……天乃。昨日の返事だけど……考えてくれたか?」
微妙だにしない俺の元へ歩み寄って来た天乃に、そう質問を投げかけてみた。
そしたら彼女は怪訝そうな顔で首を傾げた。
「だから、付き合うとか無理かなって。今言ったじゃん。」
……ああ。
幻聴じゃなかったんだな。