+△0204:Sat ほんとうは何も愛せないわたし 血が舞っている。きらきら、きらきら。 かつてのいまわしい記憶とともに蘇る赤黒く汚れた他人の血はわたしをああもたやすく脆くするのに、どうしてこの血はひどくうつくしく世界をいろどるようにみえるのだろう。押しのけたヴァイオレットが目を見開くのがみえる。その背後でしゃがみこんだ姫の顔も。ジョーカーの一撃目をうけとめたわたしのあのつくりものの左手は甲高い音を立てて砕けながらわたしの肉のいちぶとともに彼方に吹っ飛んで、二撃目はわたしの肩と胸を抉って血と肉を散らした。 「…ッな、」 「ど、うして、あなたが」 ジョーカーの顔がほんの一瞬驚愕に染まる。ヴァイオレットの声とともにほんのわずかな痛覚は引き伸ばされるように鈍いものとなってゆく。わたしは後方宙返りの要領で地面に手をつきジョーカーの顔面を蹴り飛ばす。意趣返しのわけではないけれど、彼の悪趣味なサングラスのふちが割れて落ちていくさまを見届けつつ、手のひらに液体をためて刃の破片と変え撃ちはなった。驚愕の残滓をはりつけたその顔はしかしすぐさま苦々しいものへと変わっている。撃ちこまれた破片を片っ端から鋼鉄の糸でもって切断して、撃ち漏らした破片で頬から血を流したジョーカーはわたしを見下ろした。背中のうしろでヴァイオレットがぺたんと尻餅をついた気配。わたしは彼女に同情していた。安っぽい感情を抱いていた。わたしと彼女の境遇が似ていたというただそれだけの事実にもとづいて。 「…ナデシコ」 「救済できるなんておもってない 私は私のしたいようにしたいとおもったの にんげんらしくありたいとおもった それだけ」 わたしはもう人形ではない。その意図を込めて、わたしは身を低くして身構えた。わたしがのりこえねばならぬ壁がそこにはあった。打ち砕き、埋めなくてはならぬ過去があったのだ。 |