第60話「鴉は蒲公英に教えを乞う」

「あー!だからそうじゃないんだって!」


ある昼下がり、機能回復訓練を続ける炭治郎たちであったが、その休憩中、何故か善逸が清隆に大声を上げるということが起こった。
清隆は善逸に叱られ、困ったように眉尻を下げながら項垂れる。
そんな清隆を見つめ、善逸ははあっと隠すことなく大きなため息をついた。


「お前って、意外にすっっごい不器用だったんだな。」

「うっ……意外ってなんだよ。だから言っただろ?俺は不器用だって。」

「想像以上だよ!あと開き直んな!」


この2人が先程から何をしているのかと言うと、実は清隆が善逸に花冠の作り方を教えて欲しいと言ってきたのである。
大好きな小羽の兄であり、いづれは自分の義理の兄になるであろう清隆からのたっての頼みに、善逸は二つ返事で了承した。
しかし、実際にこうして教えてみればとんでもなかった。
清隆の手元には、ボロボロになったお世辞にも綺麗とは言えない花の残骸たち。
そう、清隆はとんでもなく不器用な男であった。
手先が器用な善逸とは逆に、何かをしようとすると逆に物を破壊してしまうタイプの人間である。
想像以上に不器用な清隆に、善逸は頭を抱えていた。
清隆に花冠の作り方を教え始めてかれこれ2時間以上は経過していた。
善逸も根気よく教えていたのだが、いつまで経っても上達しない清隆に、いい加減善逸も匙を投げることにした。


「あーもー!無理だわ!お前にはこういう細かいのとか無理!!」

「そういうなよ!教えてくれって!」

「教えても教えてもぜんっっぜんできるようにならないじゃんか!!」

「もっと分かりやすく教えてくれよ!!」

「教えとるわ!!」


これ以上どう分かりやすく教えろって言うのかと言いたげに、善逸は力いっぱい怒鳴った。
善逸に匙を投げられて、清隆はしゅんと眉尻を下げて悲しげに項垂れる。


「……俺だって、一生懸命やってるんだよ。でも人には向き不向きがあるんだ。」

「だったらさあ、俺が代わりに作ってやろうか?その方が綺麗にできるし。」


善逸の申し出に、清隆は少しだけ迷ったように考える素振りをする。
しかし、少しの沈黙の後、静かに首を横に振った。


「……いや、善逸の申し出は有難いけどさ、やっぱり自分で作ったものを禰豆子ちゃんに贈りたいんだ。下手っクソな花冠でもさ、やっぱり他の男が作ったものを贈りたくなんかないんだ。」

「……はあ。」


清隆の言葉に善逸は深くため息をつくと、やれやれと肩を竦めた。


「……だよな。俺も男だからその気持ち分かるわ。しゃーない!もう少しだけ付き合ってやるよ!」

「善逸……ああ!ありがとう!」


善逸も清隆の気持ちが分かるからか、どこか呆れたようにしつつも、最後まで付き合ってくれるようだ。
善逸の優しさに清隆はめいいっぱいの感謝の気持ちを込めてお礼を言ったのだった。



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「――頼む!!」

「うーん。」


善逸の涙ぐましい努力と協力により、なんとかそれっぽい花冠を作り上げることが出来た。
そして現在清隆は、炭治郎に頭を下げていた。
まるでお手本のように綺麗に垂直に体を曲げて頭を下げる彼に、炭治郎は困ったように腕を組んで顔をしかめていた。
実は清隆は花冠を作った花畑に禰豆子を連れて行きたいらしく、夜に2人で出かけるお許しを貰うべく、禰豆子の兄である炭治郎に頭を下げてお願いしているのであった。


「――この通り!!頼む!!」

「うーん、でもなぁ〜……」

「禰豆子ちゃんの身の安全は俺が命にかえても保証する!!だから禰豆子ちゃんとデェトさせてくれ!!」


兄としては、可愛い妹を簡単に差し出したくないものである。
炭治郎の気持ちは同じ兄として清隆も痛いくらいに共感しているのだが、それはそれ、これはこれである。
どうしても禰豆子と夜の散歩に行きたい。
必死に頼み込んでくる清隆に、炭治郎は困ったように唸る。


「……兄としては、簡単に逢い引きを許すのもなぁ……」

「頼む!!炭治郎!!彼女を喜ばせたいだけなんだ!!」


清隆のあまりにも必死な様子に、炭治郎は困ったように苦笑すると、仕方なく折れることにした。


「……わかった。清隆を信じよう。」


炭治郎のその言葉に、途端にパッと顔を輝かせて嬉しそうに頭を上げる清隆。


「!、あっ……ありがとう炭治郎!」

「ただし、あまり遅くなるなよ?」

「ああ!分かってる!」


炭治郎の信頼を裏切ることのないように、紳士的に対応するのは当然のことである。
清隆は力強く頷くと、炭治郎はやれやれと複雑そうに笑うのであった。

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