第105話「交渉成立」

「……鏡の欠片を集めるのに協力すれば、田沼君から出ていくのね?」
「ああ、約束しよう。」
「!」
「……それが一番安全だろうな。無理矢理追い出せば精神が危険かもしれないぞ。」
「私も手伝っていい?」
「透ちゃん。」
「では決まりだな。」

女妖怪がそう言うと、突然田沼の体がぐらりと傾いた。
慌てて抱き止める彩乃。 

「田沼君!」
「……夏目……」
「大丈夫!?」
「……ああ……事情は何とか聞こえていたよ。」
「そう……」
「すまないが夏目、多軌、ニャンニャン先生。鏡集め、付き合ってくれないか?」
「もちろんだよ!」
「私も!」
「私はニャンコ先生だぞ!」
「――ありがとう。」

そう言って田沼は微笑んだ。
人に頼ることに慣れない者同士、遠慮なく頼ることのできるこの関係が、夏目達は嬉しかった。

*****

その日、三人は一緒に下校した。

「――取り憑かれているからなのか少しわかるんだ。」
「――ん?」
「……すごく大切な鏡らしい。どうやら友人が病気らしくて、その病気を祓う力をあの鏡は持っている……らしいんだ。」
「友人のため……」
「そうだったの……」

田沼から語られた女妖怪の事情を知り、彩乃は田沼を救いたいと思うのと同時に、女妖怪も助けてやりたいと感じた。

「――それと……警告もしている。」
「その鏡はとても強い力を持っていて、欠片を狙ってくる妖もいるようだから……気を付けろと言ってる。」
「……狙ってくるか……あの金槌の妖のことかしら……」
「そうかもしれない。」
「大丈夫よ!皆で頑張りましょう!」
「多軌……」
「透ちゃん……」

暗くなりかけていた空気を変えようと、敢えて明るく振る舞う多軌に二人は笑う。

「ああ、そうだな。」
「だね。」

三人と一匹は、その日から鏡の欠片を集めるのであった。

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