第2話「新しい学校」

――浮世絵町、浮世絵駅――

右を見ても、左を見ても、どこを見ても……いる。
角の生えた小さな小鬼、二本立ちで歩くネズミ。
本来人には見えないそれは、妖や妖怪と呼ばれるものの類で、それが今は目の前に沢山いた。
そのあまりの多さに彩乃は絶句する。

(ほっ……本当に妖怪の巣窟なんだ……)

ここに来る前に相棒のニャンコ先生に言われていた言葉を思い出し、思わず顔を引きつらせた。

(それにしても……いくら何でも多すぎじゃないかな?)

確か妖は自分の意思で人間に姿を見せたり隠れたりする事が出来ると先生が言っていたけど、彼等は今、私以外には見えないのだろうか?
駅の周辺は人だかりも多い。
見た感じ、誰も彼等を気にも留めない様子から、おそらく見えていないのだろう。
羨ましい限りである。

(……よし、無視して行こう!)

無視を決め込んだ彩乃は何も見なかったことにして、学校へ向かったのだった。

*****

「おはよう、彩乃ちゃん!」
「おはよ、夏目!」
「透ちゃん、田沼くん!そっか、同じクラスなんだね!」

学校に到着してまっすぐに教室に向かうと、そこには顔馴染みの二人がいた。
肩まである栗色の髪の少女は多軌 透(たき とおる)。
黒髮の生真面目そうな少年が田沼 要(たぬま かなめ)。
二人は私が妖を見えることを知っていて、ニャンコ先生の正体も知っている。
二人もまた妖を見ることは出来ないが、透ちゃんは「陣」を描くことでその陣の中に居る妖を見ることができ、要くんは妖の気配を感じることができる為、妖に関して人には決して相談することの出来ない悩みを話せる数少ない大切な友達だ。

「前の学校では別々のクラスだったから、今年から同じクラスになれて嬉しいな!」
「ふふ、私もよ。」
「北本たちも同じクラスだった。みんな一緒だな!」
「本当に?わあ、今年は賑やかになりそうだね!」

去年は皆クラスが別々で、お互いのクラスをちょくちょく訪ねていた。
それはそれで楽しかったが、やはり仲のいい友達と同じクラスになれると嬉しいものである。

「ねぇ、帰りにみんなで寄り道していかない?美味しそうなクレープ屋さんを見つけたの!」
「クレープかぁ。俺は特に予定ないし、いいぞ。」
「私も、行く行く!」

多軌の嬉しいお誘いに彩乃と田沼は笑顔で頷く。
彩乃は妖や友人帳のことが気がかりではあったが、新たな町での新たな学校生活を密かに楽しみに感じるのだった。

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