第112話「鏡」

「何で!?何で先生が鏡持ってるの!?しかも殆ど元に戻ってるし!」
「私の実力をもってすればこんな欠片集めなど砂の中から砂を見つけるくらい簡単なことなのだ。」
「あ……」

その時、彩乃の右目から今まで集めた鏡の欠片が抜け出し、先生の持つ本体へと戻っていった。
そして、鏡は完全に一つの大きな鏡へと元の形に戻る。

「――さあ、これを持って去るがいい。」
「ああ、ありがとう。」

田沼の体からするりと抜け出したキョウカは微笑むと、ゆっくりと鏡に手を伸ばす。

ガサガサガサ
ガサァ!!
「!!」
「かがみ……かがみ……!!」

キョウカが鏡に触れた瞬間、茂みが激しく揺れて金槌の妖怪が襲ってきたのだ。

「まずい!またあいつが……!」
「かがみ……ほしい……ちから!!」

彩乃は咄嗟に鏡を守ろうと両手を広げて前に出る。

ガンっ!
「あっ!!」
「夏目!?」

鏡とキョウカを庇おうとするも、あっさりと金槌で殴り飛ばされてしまう彩乃。

「よこせ……よこせ……かがみ……」
チカッ
カッ!! 
「!!」
「ぎ、ぎ、まぶしい……まぶしい……」
「――悪いがこの鏡、譲ってやれん。帰るがいい。」
「まぶしい……かがみ、こわい……こわい……」

金槌の妖怪が鏡に手を伸ばすと、鏡は一際目映い光を放ち、金槌の妖怪は怯んで何処かへと逃げるように去っていてしまった。

「――去ったな。」
「夏目!夏目大丈夫か!?」

倒れ込む彩乃を田沼が慌てて抱き起こす。
うっすらと目を開けると、心配そうに自分を覗き込む田沼の背後にキョウカが浮かび上がって見えた。

「――行くのね。」
「ああ、探さねばならない。文句のひとつでも言ってやらないと気がすまぬ。そして病を祓ってやって……存分に語り合うのだ。」
「……そう。」

――見つけられるだろうか。 

『風の噂だけを頼りに……』

重い病。ひょっとしたら、もう――…… 

「……」
「お前がそんな暗い顔をすることはない。私が探したいだけなのさ。どんな結果が待っていようとも……私が会いたいだけなのさ。さらば人の子。心通わせる機会があるなら恐れぬことだ。……とても難しいことなのだ。」
(――そうだね。だからこそ――……)

失敗もするし、得難いものを得る。
それはきっと、人も妖怪も等しく同じように……

*****

こうして、田沼取り憑かれて事件は解決した。

「――そうか。行っちゃったのか。多軌にも報告しないとな。」
「そうだね。」
「心配してくれた夏目達には悪いけど、ちょっと楽しかったよ。」
「え?」
「夏目が見ているものも見れたし、あの妖とも結構話も出来たし。」
「ええっ!」

田沼の発言に慌てる彩乃。

「話したって何を?変なこと吹き込まれてないよね!?」
「あはは、夏目は本当に苦労してるんだな。」
「!?」

田沼の言葉に驚いたように目を見開く彩乃。
そして、少し考える素振りをすると、困ったように微笑んだ。

「…でも…苦労ばかりじゃないんだよ?田沼君も、そうだったでしょう?」
「――ああ……そうだったよ。」

そう言って田沼君は笑ってくれた。
それが嬉しくて、私は胸の奥がなんだか温かな気持ちになったんだ。

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