第128話「柊の願い」

名取を見掛けた彩乃は、彼に事情を説明しようと名取達を探していた。

「……名取さんいますか!?」
(……確かさっきこの辺に……でも何で名取さんがここにいるんだろう?それにあの人……)

ちらりと見掛けただけだが、以前会合で会ったゆらちゃんのお兄さんではなかっただろうか……? 

(何で二人が一緒に……?)

その時、茂みから腕が伸びてきて彩乃の口を何者かがふさいだ。

ガサリ
「わっ!モゴモゴ」
「しっ!」
「……名取さん」
「やあ久しぶりだね。」
「……何やってるんです。こんな所で。」
「あははそれは……こっちのセリフだ。こんな所でそんなゴージャスな格好して何やってるんだい。」
「好きでゴージャスやってるんじゃありません!!」

明らかに怒っている名取に、彩乃は冷や汗をかきながら答える。

「――私はこの山の何処かに封印されてしまったらしい豊月神を探しに来たんだ。彼と協力してね。」
「あなたは……確かゆらちゃんのお兄さん?」
「……花開院竜二だ。」

それまで彩乃と名取の会話を傍観していた竜二だったが、名取に紹介されて名を名乗る。
そのどこか渋々といった様子に、彩乃は少しだけ困ったように目を細めた。

「……どうして、祓い屋の名取さんと花開院さんが一緒に?確か花開院さんは陰陽師ですよね?」

名取から以前、祓い屋と陰陽師は同じ妖祓いだが仲が良くないと聞いていたので、どうしてそんな二人が一緒にいるのかと不思議そうに尋ねる彩乃。
それに名取は珍しく歯切れの悪い口調で話した。

「それは……」
「……俺達の事よりも、お前はどうしてこんな事に巻き込まれてるんだ?」
「――え?私は……豊月神が勝たないとこの辺りは枯れ山になる。だから封じられた豊月神に化けて何とか不月神との勝負に勝って欲しいと……」
「――あの小物達にお願いされて引きずってこられたと……」
「……はい。」
「その丸い生き物は用心棒じゃないのかい?」
「阿呆。こんなチョロチョロ動く奴のお守りがどんだけ大変だと思っとるんだ!それにこの山には美味な酒が湧く泉があるんだぞ。ほっとけるか!!」
「……」
「役に立たねぇ式だな。」
「おいそこの小僧聞こえとるぞ!!」
「……ふん。」

竜二は憤るニャンコ先生を無視して小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「――でも、確かにこの山が枯れて困るのは妖だけではないですし……やってみたいんです。名取さん、花開院さん、力を貸して貰えませんか?」
「こちらとしても君とやれるのは有り難いところだけど……」
「よかった!本当は流石に人一人ではと、途方にくれていて……」
「彩乃、あのね……」
「おや夏目様?」

彩乃が協力して欲しいと頼むと、名取は何か言いたそうに言葉を詰まらせる。
そして勝手に安堵する彩乃に、名取が意を決して話そうとすると、豊月神の僕の一人が彩乃に声を掛けてきた。

「その男達は……『祓い屋』でございますか?」
「っ!この人達は豊月神を封じた人ではないからね。封印の場所を探し出す為に来てくれたの!!」
「――ほう……それは大変有り難きこと。人の子よ。我等は豊月様にお仕えする白笠衆どうかお力を。」
「詳しく聞こう。」
「名取さん、あまり妖怪の言葉を鵜呑みにするのは……」
「――ああ、わかっているよ。」

二人は小声でそんなやり取りをすると、彩乃から少し離れた場所で改めて白笠達から話を聞くことにした。
暫くして残された柊が彩乃に声を掛けてきた。

「――まったく、お前の周りはいつも騒がしいな。」
「好きで騒いでる訳ではないからね。」
「――無理をするなよ夏目。」
「……ええ。」

淡々とした言葉の中に彩乃を心配する気持ちが伝わって、彩乃は思わず微笑んだ。

「夏目様、ご支度を。」
「うん、わかった。」
「そろそろお祭りが!会場となる原っぱへ急がねば!」
「――お前は何だか少し柔らかくなった気がする。」
「――え?」
「名取もいつか……そんな風になることがあるだろうか。」
「……柊?」

どこか寂しそうにそう呟く柊が気になって彼女の名を呼ぶが、柊は名取に呼ばれて彼の元へ行ってしまっていた。
――どういう意味なんだろうか? 
柊の言葉が何故か耳に残り、彩乃は悶々とした気持ちで支度をするのであった。

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