第129話「勝負の内容は?」

「――そういえば勝負って何をするの?」
「競争だったり物探しだったり、その度決めてやるのです。」
「えっ……アバウトだね。対策の立てようがないわ。」
「あっ、まずいお隠れを!!」
「えっ、わっ!!」

突然白笠達が彩乃の背中を押して茂みへ押しやる。

「……何?どうしたの?」
「あれは不月様のお付きの者……一体何しに……」

茂みに身を隠して顔を覗かせると、不月神の僕である黒衣達がこちらにやって来た。
手には大きな鎌を持ち、とても穏やかな雰囲気ではない。
彼等は突然現れたかと思えば、乱暴にも鎌を白笠達に向けて振り回した。

「ぎゃあ!」
「やめろっ!」
「お前達、何をコソコソやっている。お前等如きがいくら小細工をしたところで今回こそは我等が不月様が勝つのだ!!」
「噂では豊月神はまだ姿をお見せにならぬとか。」
「お前等やこの山のことが面倒になってお逃げになったのではないか?」
「!何を!?」
「豊月様はそんなお方ではないぞ!!」
「そうだそうだ!!」
「うるさい黙れ!!」
「ぎゃっ!!」
「っ!」

黒衣達の豊月神への冒涜の言葉に怒り狂った妖達が、次々と文句を言い出す。
その騒ぎに苛立ったように黒衣は鎌を妖達に振り回した。
中には怪我をする者まで現れ、騒ぎがどんどん大きくなっていく。
見ていられなくなった彩乃は咄嗟に木に登ると、面を被って近くに落ちていた小石を黒衣に投げつけた。

ガッ!
「ぎゃあっ!!……うう」
「こんな所で暴れてもらっては困る。心配せずとも豊月神はここにいるぞ。戻って始まりの時を待つがいい。」
「おお、あの面はまさしく豊月様!豊月様がいらしたぞ!」
「よかった。やっと来てくださったか!」
「ちっ」

彩乃を豊月神と信じた妖達が歓喜の声を上げる。
それに黒衣は舌打ちするとスゴスゴと去って行った。

*****

「――よかった。バレなかった……」
「お見事なハッタリでした。夏目様。」
「これで奴等も豊月様がいると信じたでしょう。」
「……だといいけど……」
「彩乃!」
「わっ!はい……」

騒ぎに気付いた名取と竜二と柊がこちらに走ってくる。
名取に至っては険しい表情で彩乃をまるで怒鳴り付けるように名を呼んだ。
珍しく本気で怒った様子の名取に、彩乃は戸惑う。

「また危ないことを……彩乃、はっきり言っておくよ。私は豊月神の封印を解きに来ただけじゃない。この山を守るという君と同じ目的の為に、もし不月が勝つことになったら私達はそれを祓わなければならない。」
「――え。」
「君に危険が及ぼうとした時もだ。」
「……名取さん……」 
「夏目様。」

名取の口から告げられた衝撃的な言葉に呆然とする彩乃。
そんな彩乃の心情など知らない白笠達は、時間がないと彩乃を御輿に乗せようとする。

「夏目様、準備はよろしいですか?」
「夏……豊月様お急ぎください。」
「あっ……名取さん!」
「彩乃」

名取に何か言わなければと焦る彩乃を、ニャンコ先生が呼び止める。

「あいつ等に祓わせたくないなら、そういう事態にならぬよう踏ん張ってみせろ。それくらいの覚悟なしにはやり通せんぞ。」
「ニャンコ先生……うん。そうだよね!」

ニャンコ先生の言葉に彩乃は決意を固める。
その時、近くで太鼓を叩く音がした。

「おお、祭りが始まる。」
「参りましょう豊月様。」
「……夏目」
「柊……」

御輿に乗った彩乃に柊が声を掛けてきた。
面で表情はわからないが、どこか彩乃を心配しているような気がした。
だから彩乃は柊に微笑んだ。

「――名取さんを頼むね。」
「――ああ」

柊は短くそれだけ答えると、彩乃はニャンコ先生を抱き上げて前を見据えた。

「――よし、行こう。」

これから何が起こるかわからないが、名取達に絶対に不月神を祓わせる訳にはいかない。
彩乃は何がなんでも勝たなければと強く決意するのだった。

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