第134話「夏目と竜二」

彩乃と竜二は上流を目指してひたすら走っていた。

「結構流されたな。」
「急がないと。黒衣達に先をこされる。」
ピンっ!
「えっ……」
ガラガラガラ!!
「花開院さんっ!!」

走っている途中、竜二は縄に足を取られてしまう。
それは黒衣達が獣を捕まえる為に張っていた罠で、縄を引っ張った瞬間、頭上から大量の丸太が彩乃と竜二の上に降り注いだ。
思わず竜二を庇うように両手を広げて彼に覆い被さる彩乃。
丸太は彩乃と竜二を襲い、二人は丸太の下敷きになって倒れ込んだ。

「おお、罠に何か掛かった。」
「おお、ついに獣を捕らえたか!?不月様をお呼びしろ!」
「!、やや、待て!」
「獣ではない……何ということだ、豊月神ではないかっ!!」
「何!?何としたことか……」
「いや待ておかしいぞ……あれは本当に豊月神か!?」
「……何……?」
「やや本当だ……人の子の匂いがする。」
「まさか……まさか人の子が我等を謀っているのではあるまいな。」
「人の子?……人の子だと……?」
「まさか人の子如きが豊月神に成り済まし、我等を騙しているというのか?」
「起こせ!確かめろ!!」
「う……」

黒衣達は彩乃に近付くと、面を剥ごうと手を伸ばした。

「――餓狼、蹴散らせ!」
ババババ!!!
「ぎゃあっっ!!」

黒衣達が彩乃に触れる寸前、突然彼等を水の鞭が襲い掛かった。

「何だ!?」
「あれは式神……祓い人か!?」
「何だと!?何故こんなところに祓い人が……!」
「そいつから離れろ。」

竜二は竹筒の中に仕込んでいた式神「言言」を呼び出すと、黒衣達を威嚇するように睨み付けた。
突然の陰陽師の登場に黒衣達は怯んで彩乃から離れていく。
彩乃から妖怪が離れたのを確認すると、竜二はニヤリと悪どい笑みを浮かべた。

「……さっきはよくもやってくれたな。覚悟はいいな?」
「――っ、待って!!」

竜二が式神に命令をくだそうとすると、意識を取り戻した彩乃が慌てて竜二を止めようと竹筒を持つ右腕にしがみついた。

「!おい!放せ!!」
「駄目です!黒衣達を祓う気でしょ!?」
「相手は妖怪なんだぞ。始末して何が悪い!」
「妖だってだけで殺していいわけないでしょ!!」

妖怪だという理由で黒衣達を祓おうとする竜二を、彩乃は必死に止めようとする。
邪魔をする彩乃に苛立った様子で竜二は舌打ちをした。

「……ちっ、邪魔するならお前も容赦しねぇぞ。」
「何されたってやらせるわけにはいかないわ!!」
「……彩乃!」
「……っ!」

二人が言い争いをしていると、彩乃の耳に聞き慣れた声が届いた。
ハッとして上を見ると、空から本来の姿に戻った斑が彩乃の前に降り立った。

サザッ!
ゴオオッ!
「――!逃げたぞ、追え!!」

斑は彩乃の着物の裾を咥えると、そのまま空へと飛び上がる。
彩乃は慌てて竜二の腕を掴み、二人は何とか黒衣達から逃げることができたのであった。

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