第7話「茶髪の妖」

リクオ視点

散々な肝試しだった。
奴良リクオは深く、それは深くため息をついた。
奴良組の妖怪たちは好き勝手やっていたし、雪女たちはボクに内緒で一緒に学校に通っていたという衝撃的な事実を知ってしまった。
清継くんたちに妖怪を見られてしまった時は焦ったが、明日は不良とか何とか言って誤魔化そう。
一緒に帰ろうと誘ってくれたカナちゃんを何とか説得して送り出し、ボクたちも家に帰ろうとした時だった。

「若、近くに強い妖気を感じます。気をつけて下せぇ、若を狙う敵かもしれねぇ!」
「えっ!?」
「そうね、確かめなくちゃ。リクオ様と青はここに居て下さい。私が見てきます。」

そう言って何処かに行こうとする雪女をリクオは慌てて止める。

「なっ、駄目だよ!危ないからボクたちも一緒に行く!」
「リクオ様っ!私を心配してくださるんですか!」
「えっ?まあ、それもあるけど、気になるし……」

リクオに心配されて嬉しそうに顔を輝かせる雪女に若干引きつつも、リクオたちは強い妖気がする場所へと向かった。

「リクオ様、こっちです!こちらから強い妖気が……」
「待ってよ雪女!」

雪女に急かされて駆け足でそこに向かうと、そこには面で顔を隠しているが、おそらく女の子であろう人型の妖怪と白く大きな獣の妖怪がいた。

「……っ!」
「……あっ!」

女の子の妖怪が驚いた様に小さく声を漏らす。
何故かボクたちを見てとても焦っているようだった。

「ねぇ、君たちも奴良組?ここで何してるの?」
「……えっと……」
「若、気いつけて下せぇ。こいつら、奴良組のモンではありやせん。」
「えっ!?」

青田坊の言葉にリクオは驚きで声を上げて彼らを見る。
白い獣の妖怪はこちらを警戒しているのか、身を低くして唸っているが、女の子の妖怪はその獣を必死に宥めていた。
その様子からどうしてもリクオは彼女が悪い妖怪には思えなかったのだ。

彩乃視点

(ど、どうしようどうしよう…!)

こんな怪しげな格好をしているところを人に見られた。
ニャンコ先生は妖なので、人間の彼らには見えていないだろう。
だか、自分は人間だ。
しかも彼らは見たところ自分と同じ年くらいだ。つまり、この学校の生徒である可能性がある。
そんな人たちに見られた。

(どうしよう!不審者だとか思われる!しかもバレたら学校で噂になる…!)

彩乃はとにかくものすごく焦っていた。

「……彩乃、此奴ら全員妖だ。それもかなりの力の強い。」
「えっ!?それ本当?」

ニャンコ先生に耳元で囁かれた言葉に彩乃は驚いて彼らを凝視する。
しかし、人間に上手く化けているのか、まったく妖怪っぽくなかった。

「メガネの小僧は人間の血が混ざっているようだが、後の二人は妖だな。」
「そっ、そうなの?」
「ねぇ、君たちも奴良組?ここで何してるの?」

先生とひそひそとそんなやり取りをしていると、メガネをかけた男の子が私たちに話しかけてきた。

「……えっと……」
「迂闊に答えるなよ。」

先生にそう注意され、どう答えようかと迷っているうちに何やら奴良組だとかそうじゃないだのと勝手に話が進んでいた。

「ねぇ、君の名前は?」
「えっ?なつ……いったぁ!」
「馬鹿者!迂闊に答えるなと言ったばかりではないか!」

名を名乗ろうとした彩乃の頭を、先生が太いしっぽを鞭のように操り、思いっきり頭を叩かれた。

「ナツ?それが君の名前?」
「えっ?いや、ちが……「そうだ。そして私は斑様だ。こいつは私の家来だ!」ちょっと先生!?」

リクオの勘違いを慌てて訂正しようと口を開けば、ニャンコ先生に言葉を遮られてしまった。
その上彼らには間違った知識を植え付けようとしていた。

「ちょっと先生!何勝手なこと言ってるの!?」

勝手なことを言う先生を睨みつけながら彩乃は少し怒った口調で言った。
それにニャンコ先生は何故か呆れたようにため息を吐き出す。

「……はあ、阿呆。いいから、この場は私の話に口裏を合わせろ!」
「どういうこと?」

ニャンコ先生の意図が読めず、彩乃は不思議そうに首を傾げるのだった。

「あなたたち、何しに奴良組のシマに入り込んだの?答えなさい!」
「……小娘風情が生意気な。喰ってしまうぞ!」
「だーもー!駄目だよ!せん……斑っ!」
「ナツ、君たちは何者なの?奴良組の者でない妖怪がどうしてここに?」
「えっ?(私も妖怪と勘違いされてる?)」

彩乃は一瞬自分まで妖怪呼ばわりされて、きょとりと目を丸くしたが、考えてみれば自分は今、人間の匂いを消して妖に扮しているのだった。

(まあ、正体は知られない方がいいよね?)

夏目と名乗れば友人帳を狙ってくるかもしれない。
彩乃はこのまま隠すことにした。

「私たちは、ここに住む妖に借りていたものを返しに来ただけだよ。」
「借りていたもの?」
「もう行くぞ、ナツ!」
「うん。」
「あっ……待って!」

リクオが呼び止めるも、彩乃は先生の背中に乗り込むと、そのまま空へと飛び上がってしまった。
去ってく後ろ姿をじっと見つめながら、リクオは何故かその後ろ姿が目に焼き付いて離れなかった。

「……はあ、びっくりしたぁ!」
「まったく、お前は本当に鈍臭いな!」
「何よニャンコ先生!でもまあ、今回はありがとう。」
「……ふん。普段からそうやって素直に私の言うことを聞けばいいものの」
「せ〜ん〜せ〜い〜?」

素直にお礼を言って微笑む彩乃に先生は悪態をつくと、彩乃はにっこりと黒い笑顔を浮かべて拳を握り締めるのだった。

*****

白い獣と少女の姿をした妖怪が去った方向をじっと見つめながら、リクオはぽつりと呟いた。

「ナツ……また、会いたいな……」

彼女は一体何者なのだろうか。
あの面の下は一体どんな顔をしているのだろう。
月夜に輝く長く美しい髪をしたあの妖怪が何故か気になった。

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