第162話「影踏み鬼」
「おのれ〜〜待たんか〜!!」
影踏み鬼をやることになった彩乃達は、鬼であるニャンコ先生から必死に逃げていた。
「はあはあ……何処に逃げよう……」
「あれ?彩乃ちゃん。」
「あ、リクオくん……リクオくんもこっちに逃げてきたんだ。」
がむしゃらにニャンコ先生から逃げていると、リクオとばったり出くわした。
どうやら彼も彩乃と同じ方向に逃げてきたようだ。
「まて〜!!」
「!?、やばっ!ニャンコ先生こっち来る!」
「彩乃ちゃん!こっちに逃げよう!」
「へ?あっ!」
ニャンコ先生の声がかなり近くに聞こえ、慌てる彩乃の手を掴んでリクオは走り出す。
無意識なのか何の躊躇いもなく彩乃の手を掴んだリクオに彩乃は慌てて着いていく。
ズボッ!
「えっ?」
「「う、わああああ!!」」
ザザザザザ!!
「……いっつ〜!」
「たた……」
逃げることに夢中で足元が疎かになっていたようで、彩乃とリクオは目の前に穴があるのにも気付かずに二人一緒に深い穴へと落ちてしまった。
落ちた拍子に尻やら背中を打ち付けてしまい、彩乃とリクオは痛みで顔を歪めた。
「……リクオくん大丈夫?」
「うん……彩乃ちゃんこそ怪我してない?」
「ちょっと背中が痛いけど大丈夫。大したことないよ。」
「本当に?」
「?、うん。」
「なら良かった……結構深い穴に落ちちゃったね……」
「そうだね……どうしよう……」
「「…………」」
二人して上を見上げたまま途方に暮れる。
妖怪のリクオだったら余裕で上れそうなものだが、まだ夕方には少し時間があり、人間の彩乃達だけではとても穴から出られそうになかった。
「……しょうがない。ニャンコ先生が見つけてくれるまで待つしかないね……」
「ごめん、彩乃ちゃん。僕がちゃんと足元を注意してなかったから……」
「リクオくんのせいじゃないよ。気にしないで!」
「でも……」
「それに、ここにいれば当分踏まれることはないから。ね?」
「……そうだね。」
自分を気遣ってわざと明るい方に話をしてくれる彩乃に、リクオは微笑んだ。
それから二人はニャンコ先生が見つけてくれるまで二人で寄り添うように隣に座り、話をして時間を潰すことにした。
「……リクオくんは、こういう外での遊びって小さい頃はよくやってたの?」
「え?……そうだね……組の連中とかくれんぼとかよくやってたよ。」
「……そうなんだ。」
「彩乃ちゃんは?」
「んー、私は転校続きで友達ができなくて、こういう風に大勢でやる遊びってあんまりやったことないの……」
「あ……」
リクオは聞いてからしまったと思った。
彩乃は最初に言っていたではないか。
『いつも同年代の子供達が遊んでいたのを遠くから見ていただけで、やったことはなくて……』
それはつまり、彩乃は孤独だったと言うことだ。
リクオは悪気がなかったとはいえ、嫌なことを聞いてしまったと申し訳なくなった。
そんなリクオの気持ちに気付いたのか、彩乃は苦笑すると言った。
「ごめんね、何か重い話になっちゃって……」
「え、いや……」
「私、小さい頃から妖が見えていてね、昔はそれを自分だけが見える存在だってわからなくて、周りに言いふらしていたの……自分には見えていても周りの人には見えていない訳だから、気味悪がられるのは当然で、同年代の子供達や大人達からはよく嘘つき呼ばわりされてたんだ……そんなんだから、風評もあまり良くなくて……」
「……辛く、なかったの?」
「……辛かったよ。でもね。転々と引っ越す先で着いてすぐには話し掛けてくれる子は結構いたんだよ。風評なんか気にしないで、純粋に。」
「……」
「それなのに、私がわけのわからないことを言うから……彼等にとっては嘘つきだったから……嘘つきが嫌われるのは当然で……」
「彩乃ちゃん……彩乃ちゃんは、それでどうして……その……妖怪を嫌いにならなかったの?」
「え?」
「だって、そんなに辛い思いをしたのなら、普通は妖怪を嫌いになったり、恨んだりするよね……?」
「ああ……それは……あの子のお陰なの……」
「――あの子?」
「……うん。昔、すごく小さい頃に一度だけ会った男の子なんだけどね。ほら、前に私がヒノエの若返りの薬で小さくなっちゃった時に話した男の子……」
「あっ、それは……」
たぶん僕です……
リクオはその言葉を飲み込んだ。
確信はなかったし、あの時の女の子が彩乃だとはっきりと言える自信がなかったからだ。
そうだと良いなとは思っているが……
「……あの、良かったらその子の話、もう少し詳しく聞いていいかな?」
「――え?……うん、いいよ。」
そして彩乃は語り出すのであった。