第164話「カナ、13歳の誕生日」

浮世絵中の屋上は普段から開放されており、生徒も立ち入りが許されている。
生徒たちが部活動に励む放課後に、その屋上にて本日は清十字団が謎の活動をしていた。

「ハイそこ!!違う!!式神の構えばこうや!!」
「「こ、こう?」」
「……なんか、恥ずかしいな。」
「そ、そうね。」
「恥ずかしがったらアカン!!大事なんは妖怪に気持ちで負けん『すごみ』や!!陰陽師の『禹歩』は妖怪から身を守る未来への一歩やで!!」
「なんで……私等が……」
「こんなの習わなきゃならないのよぉお〜〜〜」

学校の屋上で傍から見たら結構恥ずかしい謎のダンスを踊りながら、巻と鳥居は文句を言う。
実は捩眼山での一件で妖怪に襲われたことで、陰陽師であるゆらから直々に陰陽師の護身術の初歩を指導してもらうことになったのだ。
因みに巻と鳥居とは別に田沼と多軌も巻き添えでやらされている。
彩乃も一応コーチの一人として(みんなの中で彩乃は祓い屋ということになっている)指導することになっていた。

「「ゆらちゃん厳しすぎるよぉ〜〜〜!」」
「あんた等の為やで!!また全裸で襲われてもえーん?」
「「……」」

ゆらの言葉で当時の恐怖が蘇ったのか、無言でもくもくと躍りを続ける2人。
それにゆらは満足そうに頷いたのだった。
そんなゆらたちから少し離れた所でその様子を見守っている彩乃は 、ちらりと隣で5人以上に奇妙な行動を取っているカナに目を向ける。

じー

屋上の手摺り付近でうつ伏せになり、禍々しい空気を背負いながら双眼鏡で何処かをじっと見つめるカナ。
声を掛けるのを躊躇うほど真剣に見つめるその先にはリクオと氷麗がおり、2人を見つめるカナの纏う空気が心なしかどんどん重く、冷たいものに変わっていく感じがして、彩乃は意味もわからずに冷や汗をかいていた。

(……な、なんか家長さんが怖い……)
「……夏目先輩……」
「はっ、はい!」

突然カナに声を掛けられて緊張からか声が裏返ってしまう彩乃。
そんな彩乃など気にせず、カナは双眼鏡から目を逸らさずにそのまま話を続けた。

「……あの2人ってどう思います?」
「……え?……あっ、リクオくんと氷麗ちゃん?」
「先輩ってあの2人と仲良かったですよね?……付き合ってると思います?」
「え?……えーと、どうだろう?よく知らない……」
「……はあ……」
(……もしかして、ひょっとすると家長さんて……?)

リクオと氷麗のことを考えて悩ましげにため息をつくカナに、彩乃はもしかしてこれはと普段は働くことのない鈍い恋愛センサーが反応した。
もしかしてカナはリクオのことが好きなのではないか?……と。

「……あの、家長さん……「何してるん?2人共。」

彩乃がカナにそのことを尋ねようとする前に、彩乃の言葉を遮るようにゆらが声を掛けてきた。

「さぁ〜〜家長さんもレッスンや!ホンマはいの一番に受けてほしいのがあんたなんやで!」
「え?あ……ちょっ!」
「彩乃先輩も一緒に!」
「えっ!」
バンっ!
「やぁ諸君!!やってるね!!」

ゆらに強引に手を引かれ、強制的に参加させられそうになったカナ。
その時、屋上の扉を豪快に開けてやって来たのは清継と島だった。

「ふふ……空の下で陰陽護身術の修業!!う〜む、素晴らしい光景!!今日は捩眼山での反省もかねて、妖怪のことを調査しよう!!」
「……」

島が何か言いたげに顔を引きつらせているが、清継は気付かない。
2人が来たことで田沼たちは躍りを止め、疲れたように汗を拭っていた。

「……と、その前に。」
「!?」

清継はそう呟くと手に持っていた箱をカナに差し出した。
高価そうな箱に綺麗な赤いリボンが結ばれたそれに、カナは驚いたように目を見開く。
そんなカナの反応に清継はものすごく顔を輝かせて言った。

「家長さん!!今日は君の生まれた日じゃないか〜〜〜!!マイファミリーへのプレゼントに遠慮なんかいらないよ!!ガンガン受け取りたまえ!!」
「あ…ありがとう。」
「わっ……清継くんすごーい!!」
「高級そうな入れ物〜!」
「清継くん優しいね。」
「偉いな」
「ふふ、みんな仲良いのね。」
「食べ物なん?」

ゆらだけが一人検討違いなことを言っていたが、カナは戸惑ったようにプレゼントを受け取ると、みんながどんな物かと期待した眼差しを向ける中、リボンを解いて箱を開けた。

「…………………………何……これ……」

箱の中に入っていた人形を見て、カナはもちろん、清継以外の全員が固まった。
心なしかカナにいたっては青ざめている。
そんな空気などまるで気付かない清継は、とても自慢げにそのお世辞にも可愛らしいとは絶対に言えない禍々しくも恐ろしい人形の説明を始めた。

「家長さんを妖怪化した人形だ!!どーだい超絶素敵(キュート)だろう!!」
「うげぇ〜!いらねぇぇぇ!!」
「バカ!!これはブランド品だぞ!!」
「なにそのムダなコネ!」
「……ちょっと……もう今日は帰るね……」
「え?」
「おいおい、今日は新着妖怪体験談大発表会という大切な――」
「ごめん。妖怪の話は……今日は……」
パタン

不満そうにカナを呼び止める清継に、カナは申し訳なさそうに一言謝って出ていった。
最後に見たカナの顔がものすごく青ざめていたことに、清十字団のみんなは何かを察したように口々に話し始める。

「あ〜〜、そっか……家長さんって怖がりなんすよね……?」
「そうなの?」
「なのに何で清十字団にいるんだ?」
「田沼先輩!その発言は失礼すぎますよ!」
「わ、悪い。」
「愛ですよ。妖怪に対するふか〜〜〜〜〜い愛!!」
「いやいや、清継じゃあるまいし!」
「それはどういう意味だね巻くん!!」
「…………(家長さん、顔色悪かったけど、一人で大丈夫かな?)」

最後に見たカナは本当に顔色が悪く、いつもの反応と違って今日は特に妖怪に対して怯えていたように思えた。
彩乃は何故か良くない胸騒ぎを感じつつも、みんなの話に思考を戻したのだった。

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