第166話「夏目VS雲外鏡」

「お前、邪魔……オデとカナちゃんの邪魔するな……」
「家長さんに近づかないで!来るなら容赦しな……っ!!」
バシィ!!
「夏目先輩っ!!」

カナに近寄ろうとする雲外鏡の前に彩乃が立ちはだかると、雲外鏡は邪魔とばかりに彩乃をその大きな鏡で突き飛ばした。
強い力で突き飛ばされ、彩乃の体が横に吹っ飛ぶ。
そんな彩乃にカナは悲鳴を上げた。

「これで……邪魔、いなくなった……カナちゃぁん……」
「ひっ!!」

人よりもずっと大きな鏡にカナを映し、鏡なのに目や口があるその妖怪らしくおぞましい姿にカナはガタガタと体を震わせた。

「カナちゃん……カナちゃん……遊ぼ……7年前の……続きぃ……」
「ひっ!いやっ!そんなの知らない!!」
「コッチに、おいでぇぇぇ」
「いや…吸い込まれ…いやぁぁぁああああ!!」
「家長さん!!」

カナの体が雲外鏡の鏡の中に吸い込まれ、涙を流しながら絶望のあまり悲鳴を上げた瞬間、自分を呼ぶ声と同時にその体が力強く引っ張られ、鏡の中から引っ張り出される。
そしてすかさず彩乃はその拳を雲外鏡に向けて渾身の力と霊力を込めて叩き込んだのだった。

ゴッ!!
バリィィィン!!
「ィギャァァアアアァアアア!!!!」

彩乃の霊力を込めて打ち込まれた拳は雲外鏡の鏡に大きなヒビを入れ、その衝撃で雲外鏡は絶叫を上げながら地面にのたうち回った。

「家長さん大丈夫!?」
「な……夏目……せんぱぁぁい!!」
「わっ!」

地面にへたり込むカナの顔を心配そうに覗き込むと、彩乃の顔を見た瞬間、カナは安堵のあまり彩乃に抱き付いた。
自分の胸に飛び込んできたカナを咄嗟に受け止めると、その反動で尻餅をつく。
正直ちょっと打ち付けたお尻が痛かったが、自分に抱きついてボロボロと涙を流すカナを安心させるように、その震える背中を優しく擦ってやった。

「ぅぅ……ぐずっ……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
「……ぅぅ……よくも……」
「「!?」」

止めを刺していなかったとはいえ、てっきり倒したものだと思っていた2人は、恨めしそうな声を出してゆっくりと起き上がった雲外鏡に気付くとハッとしてそちらを見た。
彩乃は咄嗟にカナを横に突き飛ばす。

「きゃっ!」
「よくも……オデとカナちゃんの邪魔……よくもぉぉぉ!!」
「ぐうっ!!」
「夏目先輩っ!!」

雲外鏡はすごい勢いで突進してくると、今度は彩乃を取り込もうと襲いかかってきた。
少しずつ彩乃の体が鏡の中に飲み込まれていき、彩乃はもう一度鏡を叩き割ろうと拳を握り締めた。
その時――……

「彩乃ちゃん!?カナちゃん!?」
「「!?」」
「リ……リクオくぅん!?」
「リクオくん!?よ……よかった……間に合った……」 

鏡の外側からこちらを驚いたように見ているのは、リクオだった。
リクオの登場にカナは助けを求めるように彼の名を呼び、彩乃は安堵したように吐息をついた。
――実は、カナの身に危険が迫っているとわかり屋上を飛び出す前に、彩乃はリクオに電話でその事を知らせていたのだ。
運よくまだ学校に残って雑用をしていたリクオはすぐにカナを探して学校中の男子トイレを回っていたという事だ。
雲外鏡はリクオの存在に気付くと、彩乃の時のように邪魔されないように今度は内側の鏡を叩き割った。

ガシャァァン!!
「リクオくん……」
「なんで……なんでどいつもコッチ(鏡面世界)が見える?」
「……もう大丈夫だよ。家長さん。」
「――え?」

出入り口である鏡を割られてショックを受けるカナを安心させるように、彩乃は彼女の肩を優しく叩いて微笑んだ。
何も解決していないのに微笑む彩乃に、カナはきょとりと目を丸くした。

「――よう。てめぇ俺のシマで女に…… 彩乃(そいつ)に手ぇ出してんじゃねぇぞ。」
メキャメキャ
「ニギャッ!?」
バリバリ……
バァァンっっ!!

リクオは夜の姿で現れると、雲外鏡を掴み、そのまま手に力を込めた。
元々彩乃の一撃で亀裂の入った鏡のヒビは瞬く間に広がり、最後には粉々に砕け散ったのだった。

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