第169話「ようこそ化猫屋」

「いらっしゃいませー!!」
「ご来店ありがとうございます!!」
「妖怪和風お食事処『化猫屋』へようこそ!!」
「ど……どうも……」
「……!?」
「よう」

リクオに連れられてやって来たのは、猫又や猫娘など、猫系妖怪が従業員を務める化け猫横丁でも特に人気のあるお食事処、『化猫屋』。
従業員たちの元気なお出迎えに、彩乃はひきつりながらも笑顔を浮かべ、カナは圧倒され、リクオは慣れたように平然としていた。

「お荷物お持ちしますねー!」
「わっ!」
「あっ、ちょっ、私はいいよ!」

従業員の猫又たちがすかさず彩乃やカナの鞄を受け取ろうと鞄を引っ張ってきたので、彩乃は咄嗟に鞄を守ろうと引っ張り返した。
思わぬ彩乃の抵抗に猫又の男性はきょとりと目を丸くして固まったので、彩乃は慌ててこう言った。

「と……とても大切なものが入ってるの!!だから、自分で持ってる!ごめんなさい!」
「……ああ、そうでしたか。こちらこそすみません。」
「ううん、ありがとう。」
「いえ!」

彩乃がそう言うと、猫又の男性は納得したようで、彩乃に軽く謝罪して笑顔を浮かべた。
不審がられずに済んだことに安堵し、彩乃はこっそりと吐息を吐いた。
この鞄には「友人帳」が入っているのだ。
相手は客として気を使ってくれたのだろうが、渡す訳にはいかない。
カナは鞄をあっさりと回収されてしまったようで、妙に色っぽいお姉さんたちの玩具にされていた。
それを見て、彩乃は心から安堵した。
もしも鞄の中の友人帳を見つけられたら、大変なことになっていた。

「では、お席にご案内しますねー!」
「あっ、はい。」
「うぇ〜い!もっと酒持ってこーい!!」
「……ん?」

従業員の女性に案内されて席に向かおうとした彩乃だったが、なんだかとっても聞き慣れた声がして、思わず足を止めた。 

「斑様〜、もうそれくらいにしといた方がいいんじゃなぁい?」
「そうですよぉ、もうベロンベロンじゃないですかぁ!」
「平気らも〜ん!!ほ〜ら、もっとどんどん持ってこーい!!」
がしっ!! 
「…………何、やってるの……ニャ・ン・コ・先・生っ!!」
ギュウウウウっ!!
「あだだだだだだっっ!!」

見ると、そこには真っ赤な顔で上機嫌にベロンベロンに酔い潰れ、従業員に止められても尚、更に酒を飲み続けるすっかり出来上がった見慣れた白饅頭がいた。
その白い物体を視界に入れた瞬間、彩乃は背後から音もなく近寄ると、勢いよく頭を鷲掴みにし、手に力を込めた。
頭を握り潰さんとする強い力で掴まれ、ギリギリと骨がきしむ音にその白い物体……もといニャンコ先生は悲鳴を上げた。

「ぎゃあああっ!!」
「な・ん・で・ニャンコ先生がここに居るのよ!!」
むぎゅうぅぅぅ〜!!
「いひゃひゃひゃ!!頬をひっぴゃりゅなばひゃもの!!」
「……ふんっ!」
ぺちんっ!!
「ぶぎゃっ!!」
べちょっ!!
「ぶふっ!!」

ニャンコ先生の両頬をつまんで思いっきり横に引っ張ると、文句を言ってきたので、彩乃は限界まで頬を伸ばすと、問答無用で手を放した。
ぺちんと痛そうな音を立てて頬が勢いよく戻り、更には彩乃が手を放したことで支える力がなくなり、重力に従って床に落ちたニャンコ先生は、蛙が潰れたような声を出した。
痛そうに頬を押さえるニャンコ先生を、彩乃は冷たい眼差しで見下ろした。

「ぐぬぅ……いきなり何をするのだ彩乃!」
「最近帰りが遅いと思ったら、こんな所で飲んでたのね。まったく……」
「別にいいではないか!鴉天狗からタダ券を貰ったのだ。使わんと勿体無いだろうが!」
「はいはい。」
「聞いてるのか彩乃!!」
「はいはい」

彩乃は頬を膨らませて文句を言ってくるニャンコ先生の言葉を聞き流しながら、酔っぱらい猫を抱っこしてリクオたちの居る席へと移動するのだった。

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