第194話「リクオの百鬼夜行」

「……リクオくん、まだ起きない?」
「ああ。疲れが溜まってたんだろ。」
「リクオ様……」

リクオの寝室で彩乃や鴆、氷麗たち側近たちが集まってリクオが目覚めるのを今か今かと待っていた。
リクオは瞼を閉じて微動だにせず、みんなが心配そうに彼を見守っていた。

「リクオくん……」
「心配すんな彩乃。すぐに目を覚ます。それより、お前ももう休め。昨日の今日で疲れてるだろ?」
「ううん、大丈夫。」
「でもよ……」

鴆の気遣いの言葉に、彩乃は首を横に振る。
リクオが心配なのもあるが、彩乃は今、とても休めそうにないからだ。

「彩乃……さっきの猩影の言葉なら気にするなよ。狒々様のことは友人帳や君のせいではないのだから。」
「……うん。そのことは確かにショックだったけど、もう落ち込んでないから……」
「……本当ですか?」

彩乃を心配そうに見つめてくる氷麗に、彩乃は微笑む。

「ありがとう、氷麗ちゃん。確かに友人帳のせいで狒々さんが殺されたって言われたときはそうなのかなって自分を責めたけど、それでも友人帳は祖母の大切な遺品だから。私にとっての宝物だから……ちゃんと事実は受け止められる。立ち止まるつもりはないよ。」
「……そうですか。なら、良かった……」

強い彩乃の決意を感じて、氷麗は安心したように微笑んだ。

「ん……ううん……」
「「!」」
「リクオくん!?」

その時、リクオが身動いで彩乃たちは弾かれたようにリクオを見た。
ゆっくりとリクオが目を覚ます。

「リクオくん!」
「リクオ様!よかったぁー!急に倒れられて……びっくりしましたよ〜。どうしたんですか?熱はないし……」
「あ……うん……心配……かけたね。」
「待て。まだ安静にしてろ。おい……お前らも気を使ってそろそろ出てけ。」
「え……あっ、ちょ……押さないで下さい〜〜!」

リクオが目を覚まして安心した氷麗たちだったが、鴆に喜ぶ間も与えられずに部屋を追い出されてしまった。
部屋にはリクオと鴆の二人っきりになる。

「お、追い出されちゃった……」
「彩乃さん、こちらに。」
「え……いいのかな。」
「早く!」

リクオの部屋から追い出された彩乃だったが、氷麗たちは戸の前で集まって盗み聞きをしていた。
氷麗にこっちにくるように手招きされ、迷う彩乃だったが、急かされて結局その場に留まってしまった。
二人の会話が微かに開いている戸の隙間から聞こえてくる。

「リクオ。お前……いつから寝てない?昼は学校。夜は市中をパトロール。そんなんじゃ倒れるに決まってらあ。なに……無理してんだお前……」
「鴆くん……無理なんかじゃないよ……これくらいこなせないようじゃ……ダメだと思うよ。僕はぬらりひょんの孫なんだから、若頭の僕が百鬼夜行を……纏めるんだ。牛鬼とも約束したんだ!!目をつぶらずにやるって……僕がやらなきゃいけないんだ……」
「リクオ……それは……お前の本音じゃねぇ。」
「本音だ!!本気で思ってる!!でも今はまだ……僕は下僕に信用されてないから!!だから……頑張るんだよ!!」
「アホかっ!!百鬼夜行はなー元々じいさんのモンだった奴らだろうが!!オメーに仁義感じねぇ奴はついてこねぇ……そんな奴はほっときゃーいいんだよ!!」
「鴆くん……」
「俺はついてゆく。俺は……お前と盃を交わしたんだからな。リクオ……お前は……お前の百鬼夜行を作れ!!」
「僕が……百鬼夜行を作る?」
「そうだ。妖怪なんざ……気まぐれなもんさ。大将に強さを感じなきゃあ……何処へなりともすぐに消えちまう。ましてやー……盃も交わしてねぇお前の下にゃあな。いいかリクオ……"畏"をぶつけて……百鬼を集めろ!お前ならできる……」
「わかってる。鴆くん。それ……夜の僕のこと言ってんだろ?でも……一日の四分の一しかなれない。夜の僕だけじゃあダメなんだよ!僕は……この姿のままでもみんながついてきてくれるようにならなきゃいけないんだよ!!」
「バッカやろー!!やっぱりおめーはわかってねー!!百鬼夜行はそーじゃねぇ!!昼も夜も関係なく"お前そのもの"におのずとついてくる……"仲間"ってのを集めろつってんだよー!!」
ガラガラ
「わあっ!!」

鴆が突然戸を思いっきり開け放ち、聞き耳を立てていた彩乃たちは雪崩れるように部屋に転がった。

ドサドサ
「ちょっ……青……黒?彩乃ちゃんまで!?」
「いてて……バレてたのか……」
「リクオ様!!」
「我々と……"盃"を交わしてください!!」
「えっ……!?」

青田坊と黒田坊の言葉に、リクオは驚いたように目を見開くのだった。

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