第195話「盃」

「我々がリクオ様に仕えているのは……元々は盃を交わした総大将の任命だったからです!!」
「いわば今……リクオ様と拙僧たちには何の契もない!!」
「でも……これまでお側にいたからこそわかるのです……」
「氷麗」
「リクオ様は……人も妖怪も護って下さるお方……」
「そんな器のでけぇあなただから……俺たちの総大将に相応しいと思えるんです。だから苦境の時こそ!!"盃"を交わして『今の』リクオ様についていきたい!!」
「…………でも……僕は……四国が来てからみんなに迷惑かけっぱなしだし……」
「だから我々と一緒に戦いましょう!!俺たちを使ってくれりゃーいーんです!!」
「みんな……」
「リクオ様。我々と七分三分の盃を……」

彩乃は目の前で静かに行われる盃の行いを黙って見守っていた。
妖怪の世界において盃とは種族の異なる妖怪同士が血盟的連帯を結ぶもので、義兄弟の盃は五分五分の盃といって対等な立場となる。
そして七分三分の盃は忠誠を誓うという親分乾分の盃である。
真の信頼がなければできぬ契なのだ。

「リクオ様。どのようなリクオ様でも私たちは受け入れます。信じてついてきたこの家の"宝"なんですから。自分に正直に……生きてください。」
ぶわり

その時、リクオの姿が昼の姿から夜の妖怪の姿に変わる。
氷麗や首無。河童に黒田坊。リクオの全ての姿を慕ってついていこうとする側近たちに、リクオはニヤリと口角を吊り上げて笑う。

「よろしく頼むぜ。みんな。」
「「はい!」」

氷麗たちはその日、改めてリクオについていこうと決めた。
盃という名の忠誠を誓い、結束を新たにするのだった。

「て……敵襲ーー!!敵来襲ーー!!」
「!?」
「何ィーー!?」
「四国の奴らと思わしき軍勢が道楽街道をこちらに向かってくる!!」
「なな、なんだって!?」
「こりゃ本格的にやべぇ!!」
「そんな……いきなり!?逃げるぞ!!」
ザワザワ
バァン!!
「!!」
「兢々としてんじゃねぇ。相手はただの化け狸だろーが!」
「リクオ様じゃ。」
「夜のお姿じゃ。」
「猩影」
「え?」
「テメェの親父の仇だ。化け狸の皮はお前が剥げ。」
ゾク……
「ハ……ハイ……」

リクオの気迫に"畏れ"を抱いた猩影。
四国妖怪の奇襲に、リクオは本家の奴良組の妖怪の大半を率いて出入りしていった。

******

「――みんな行っちゃったね。」
「そうだな。」
「みんな……無事に帰ってきてほしいな……」
「まあ、怪我は免れんだろうな。」
「……そう……」

彩乃はみんなの出入りを見届けた。
屋敷に犬神を残している今、彩乃や若菜を置いて出入りすることに不安があったリクオは何人かの側近を護衛として屋敷に残していこうとしたのだが、彩乃がニャンコ先生がいるし、牛鬼や鴆。それに怪我を負っていても牛頭丸や馬頭丸もいるから大丈夫だと断った。
最後までリクオは渋っていたが、彩乃が譲らなかったのだ。
これから大きな出入りがあるのに、あまり戦力を削いでほしくないのもあるが、彩乃は奴良組のみんなに生きて帰ってきてほしかった。
だから、絶対に勝ってほしい。
リクオを信じる仲間たちが彼の側にいることで、リクオの百鬼夜行の力になるのなら……彩乃はそちらに専念してほしかった。

――奴良組のみんなが大好きだから……

リクオや氷麗、親しくなった奴良組のみんなの心配をしながら、どうか死なないで。
無事に帰ってきてほしいと彩乃は強く願うのだった。

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