第205話「血の痕」

四国妖怪の襲撃から数日後。
彩乃に漸く日常が戻ってきた。
今日は久しぶりにニャンコ先生と日課である散歩に出掛けたのだった。

「おい彩乃。屋台が出ているぞ。」
「来週夏祭りがあるからね。」
「ほお……あっ、彩乃、イカだ!焼きイカ買ってくれ!」
「こら静かにニャンコ先生。大体ニャンコはイカ食べちゃダメなんだよ。」
「阿呆。ニャンコではない!中年からイカを取り上げる気が!?」
「ちょっ……抱っこしたくなくなるようなこと言わないで!」

強請るニャンコ先生に頼まれて、仕方なく彩乃は焼きイカを買ってやるのだった。

「まったくもう……よく噛んで食べてよね先生……」
「うう、旨い!」

うっとりとした顔で美味しそうにイカを食べるニャンコ先生を呆れた表情で見つめる彩乃。
その時、近くの石段から着物を着た女の人が下りてきた。

どんっ
「!」
「おや、ご免なさいまし。」
「いえ、こちらこそ……ん?」

女の人とぶつかってしまい、彩乃は咄嗟に謝る。
何気なく女の人とぶつかった肩の方を見ると、何故か服に血がついていたのだ。

「血!!?何これ!?」
(今の女の人についてたの!?)
「いない……?」

慌てて女の人の去って行った方を見るが、もうそこは女の人はいなかった。

(……今のは妖?怪我でもしてたのかな……?)

――でも……何か嫌な感じだった。
この石段の上から来たみたいだけど……

(上で何かあったのかな?……行ってみるか……)

彩乃は一瞬躊躇ったが、ニャンコ先生を置いて一人で石段を上ることにした。
冷静に考えたら、一人で行動するべきではなかっただろう。
だけどその時の彩乃は胸騒ぎを感じて仕方がなかったのだ。
――放っておいたら、何か大変なことになりそうで……
石段の上を上ると、そこには古びた小さなお堂があった。
慎重に近づいてみると、扉の前には一本の傘が立て掛けてあった。

(……番傘?雨でもないのに……)

――中に誰かいるのだろうか?
彩乃は少しだけ戸を開けて中をそっと覗いてみた。

「何……これ……!?」

そこには信じられない光景が広がっていた。
中を覗けば、沢山の妖怪たちが血塗れで倒れていたのだ。

「う……」
「大丈夫!?何があったの……」
ミシ
「!」
「――へえ……一匹残ってる……」

近くに倒れていた鳥の妖怪が身動いだので、慌てて声を掛けてやると、微かな足音がして彩乃は顔を上げた。
すると目の前には着物を着た人影が……
暗闇で顔は見えないが、声からして男の人だとわかった。

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