第220話「大妖、目覚める」

壺の中の最後の血が大妖の口の中に吸い込まれた瞬間、封印されていた妖が動いた。
岩に埋められていた頭が抜け、大きな瞳が彩乃たちを捕らえる。
体に巻き付いていた縄や札が引きちぎられ、大妖の体が自由になる。

「――しまった。陣に落ちた君と先生の血で目覚めてしまったか……」
「そんなっ!」
(……まさか……わざと?)

彩乃は大妖の封印が解けて嬉しそうに笑みを深くする的場を見て、確信する。
――的場さんは、この大妖の力を試したくてわざと先生を射ぬいたんだ……!

「お……おお……おおお……」
「離れろ彩乃。これはマズイ。酷い毒気を放っている!」
「さあ、お前のために血を集めたのは私だ!私のためにあの男を喰いなさい!!」
「主、危険です離れて!」
「さあ、あの男を……」
「おお……」
「主!」
ばんっ! 
「カゲロウ!」

的場を指差して食べろと命令する女。
大妖はじろりと女を見つめると、大きな手を振り下ろして女を攻撃してきた。
咄嗟にカゲロウが女を抱えて横に飛ぶ。

「何をする!なぜ私の言うことを聞かない!!」
ばんっ! 
「!!」
ばんっ! 
「うわっ!」
ばんっ!ばんっ!ばんっ!

大妖はまるで意志がないのか無差別に洞窟を破壊したり、彩乃たちを踏み潰そうと攻撃してくる。
そんな大妖を見て、女は悔しそうに舌打ちする。

「――ちっ、力は強いが能無しか!」
「……無様ですね。」
「何ィ!?」
「妖祓いをやっていながら妖なんかに情を移して、思慮にかけた行いに走るとは……挙げ句この様か。」
「くっ……」

女は的場の言葉に悔しそうに歯を噛み締めると、鋭い眼差しで恨めしげに睨み付ける。

「あの妖は使えない。うちは撤退する。」
「ちょっとあなた!」
「彩乃構うな。ここは危険だから外へ出なさい!」
「でも名取さん!」
「あの妖の毒気が充満してきてる。流石にこれが地上に出るのはまずい。封印してみる。」
「なら私も手伝います!」
「駄目だ。危険すぎる。」
「一人より二人でしょう?」

彩乃の一言に名取は言葉に詰まる。
そして諦めたように深くため息をつくと、困ったように苦笑した。

「――ああ。そうだね。」

名取は彩乃の頭を優しく撫でると、彩乃も柔らかく微笑む。
そして二人は大妖に向かって駆け出したのだった。

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