竜二と夏目(番外編)

竜二視点

多くの祓い屋や陰陽師など、霊力を持った者達が定期的に集まり情報を交換する場所。それがこの「会合」であった。
花開院家の直結の者である竜二とゆらはその日、花開院家の代表として会合に参加していた。のだが……

「……ゆらの奴、何処に行きやがった。」

先程まで一緒にいた筈の妹がちょっと目を離した隙にいなくなった。
うろうろと会場を探すも、これだけの数の人と妖怪では人一人探すのは困難だった。
何より、竜二は面倒くさかった。

「……ちっ、どこもかしこも妖怪だらけかよ。」

イライラとした態度を隠すことなく竜二は舌打ちする。
陰陽師の家柄として生まれた竜二は、幼い頃から妖怪は絶対的な悪だと教えられてきた。
だからいくら式とは言え、目の前にこうもうろうろと妖怪に彷徨かれては、衝動的に滅したくなるのだ。

「……いやがった。しかも……」

暫くして適当にぶらつきながらゆらを探していた竜二は、漸く見慣れた後ろ姿を見つけて眉間のシワを深くした。
どうやらゆらは誰かと話しているようだ。
見たところ、ゆらと同じ年頃の少女に見える。
腰まである長い茶髪の髪を垂らし、ゆらと話している少女の側には何やら不細工な白い猫がいた。

(……祓い屋か?たく、陰陽師が祓い屋と馴れ合うなよ)

のんきに少女と話をしているゆらに苛立ちを感じつつ、竜二は妹の名を呼んだ。

「ゆら」
「彩乃」

自分が妹の名を呼ぶのとほぼ同時に誰かが声を発した。
ゆらは自分に振り返り、彩乃と呼ばれた少女は男に振り返る。
あの男には見覚えがあった。

(……確か、名取周一だったか?表は俳優をしながら祓い屋をしてるって有名な)

名取家は確か、何代も前に祓い屋を廃業した元名家だと聞く。
しかし、今の代になって久方ぶりに力のある者が生まれ、再びこちらの世界に戻ってきたのだとか……

(……ま、俺には関係ないな。)

竜二は名取と少女を警戒して睨み付けながらゆらに近づく。

「おい、ゆら。何遊んでやがる行くぞ!」
「あっ!待ってやお兄ちゃん!」

少女と名取に背を向けて歩き出すと、ゆらは慌てて後をついてくる。

(あの女……かなりの力の持ち主だったな。)

ちらりと見ただけでも、竜二にはそれがよくわかった。
側に控えていた式と思われるあの猫の妖怪も、あんな姿をしてはいたが、かなりの大物であった。

「おいゆら、ここではお前はあまり人と話すな。お前はすぐに余計なことを喋るからな。それに鈍い。」
「なっ!そんなことあらへんよ!!」
「あの女が祓い屋って気づけなかった奴が何言ってんだ?」
「うぐっ!」

竜二のごもっともな言葉にゆらは言葉に詰まる。
そんな妹を竜二は呆れたように鼻で笑った。

*****

それから暫く会合で妖怪に関する依頼の情報や近辺の目撃情報などを聞き回っていると、突然強い妖気を感じた。
天井から顔の大きな妖怪が飛び出してきた時には、思わず反射的に竹筒に手を伸ばしたが、俺が式神を呼び出す前にあの女が妖怪の前に無謀にも飛び出した。
腕に噛みつかれながら拳ひとつで妖怪を怯ませた霊力の強さに、興味を引かれた。
暫く様子を見ていると、あの女と名取は無事に妖怪を壺に封印することが出来た。
しかし、的場の秘書である七瀬とか言うババアに封印した妖怪を横取りされていた。

(詰めが甘いな。壺に最初から術が施されているのにも気付いてなかったか……)

暫く見守っていたが、あの女と七瀬が何やらくだらない事で言い争いをしていた。
妖怪を囮に誘き寄せたとか、そんなことはどうでもいい。
だが、あれだけ強力な妖怪があの私欲深い的場一門に渡るのは避けた方がいいと思った。

「餓狼喰らえ!」
「ぎゃっ!ぎゃきゃーーっっ!!」

顔の大きな妖怪を滅した後、七瀬とは少し険悪な空気が流れたが、あちらも花開院家を敵に回すのは得策ではないと思ったらしい。
あっさりと引き下がった。

「……ふん(張り合いのない奴だな。)」
「……どうして……」
「……あ?」

あっさりと引いた七瀬につまらないと感じていると、あの女が何かを呟いた。
どこか不服そうにこちらを見てくる女に、俺は鋭い眼差しで睨み付けた。
何故妖怪を殺したのかと祓い屋のくせに馬鹿げた質問をしてくる女に、俺は少しイラつきながらも解りやすく理由を話していた。
それでもまだ不服そうというか、納得しきれていないと言いたげな表情をする女に、イライラしながらも、これ以上ここにいる意味はないと立ち去ろうとした。
去り際にちらりと女に視線を向けると、女は何を考えているのか顔を俯けてこちらを見ていなかった。
あれだけ強い霊力と才能を持っているくせに、どうやらあの女は妖怪を殺すことに不満があるらしい。
それが理解出来なくて、妙に苛ついた。
恐らくはもう二度と逢うことはないだろう。
このイライラも一時的なものだ。
そう思いながら、竜二は会合に戻るのだった。

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