祭りの後に……(夏祭り編番外編)

「……はあ……」
「「……」」

祭りから帰ってきたリクオは、夕飯の食卓を前にため息をついた。
それを無言で見守る側近たち。
激しく落ち込んだ様子のリクオを見て、側近たちは食事を取るのもそっちのけでヒソヒソと話し始めた。

「おい、リクオ様、帰ってきてからずっとため息ついてるぞ。」
「祭りで何かあったのか?」
「雪女。お前何か知らないのか?ずっとリクオ様と一緒にいたのだろう?」
「えっ!?わ、私だって知らないわよ!ただ……」
「「ただ?」」

言いにくそうに言葉を詰まらせる氷麗に、首無や黒田坊、青田坊などの側近たちが食いついた。
それに引きつつ、氷麗は目を逸らした。

「……な、何でもないわ。」
「何でもないわけないだろう。リクオ様のあの落ち込みっぷり……」
「さっさと吐くのが身のためだぞ。雪女。」
「だ、だから知らないんだってば!」
「……彩乃のこと?」
びくう!!

毛倡妓がポツリと呟いた人物の名に、氷麗は異常なほど反応し、びくりと肩を跳ね上げた。
そのあまりにもわかりやすすぎる反応に毛倡妓は呆れた。

「……わかりやすすぎ。」
「ちち、違うのわよ!彩乃さんは関係ないんだから!!」
「彩乃がリクオ様に何か言ったのか?」
「ええっ!?だから私は知らな……」
「「雪女!」」 
「う……」 

みんなに咎めるように名を呼ばれ、氷麗は今度こそ観念した。
はあっと、小さくため息を一つつくと、ひそひそと小声で話し始めた。

「……よく知らないけど、祭りでリクオ様と彩乃さんを二人っきりにしたの。そしたらああなってしまわれて……」
「リクオ様から何も聞いてないのか?」
「いくら訊いても教えてくれないのよ。」
「じゃあ……彩乃と二人の時に何かあったってことか?」
「何かって何だ?」
「……フラれたのかしら。」
「「!!?」」

毛倡妓がまたしても呟いた言葉に側近たちはまさかと、信じられないといった表情を浮かべた。

「まさか……想いを告げられたのか!?」
「つ、遂に!?」
「で、でも!そうだとしたらどうしてフラれたことになるのよ!」
「だって、リクオ様のあの落ち込みっぷり……それ以外に思い付かないでしょ?」
「「……」」

ちらりとリクオを盗み見る側近たち。
やっぱりため息をついて落ち込んでいるリクオに、側近たちは妙に納得してしまった。

「そ、そうか……リクオ様、お可哀想に……」
「初恋だったのにな……」
「初恋だからじゃねーか?よく言うだろ?初恋は実らないとか……」
「青。お前の口からそんな言葉が出るとはな……」
「あ?馬鹿にしてんのか?」
「およしなさいよこんな時に!」
「……リクオ様……」

首無たちが好き勝手に話している間、氷麗は心配そうにリクオを見つめていたのだった。

******

「リクオ様、麦茶お持ちしましたよ。」
「ああ……うん。そこ置いといて……」
「……」

縁側で涼んでいるリクオに冷たい麦茶を持っていくと、返事には覇気がなく、まだ落ち込んでいる様子だった。
氷麗はそんなリクオを心配そうに見つめると、意を決して尋ねることにした。

「……リクオ様、彩乃さんと何かあったんですか?」
「えっ!?」

びくりと肩を大袈裟なくらい跳ね上げて驚くリクオに、氷麗はふうっと小さくため息をついた。

「……何で……」
「私が言うのもなんですが、リクオ様がとてもわかりやすく祭りの後から落ち込んでいらっしゃるので……今日はまだ夜のお姿にもなってませんし。」
「あっ。あー……そっか……顔に出てた?」
「はい、とても。」
「…………そっかぁ……」

リクオは手で顔を覆い、「うわー、うわー、恥ずかしい……」と呟くと、静かに口を開いた。

「夜の僕が……告白したんだ。彩乃ちゃんに……」
「そ、れは……」

氷麗は一瞬息を飲んだが、予想していた答えなだけになんとも言えない複雑な気持ちになった。

(やっぱり……リクオ様は彩乃さんにフラれてしまったのかしら……私が余計なことをしたばっかりに……)
「……はあ……先越された。」
「……え?」

氷麗がリクオの辛い心境を思い、自分の行動にすら後悔をして拳を握り締める。
しかし、リクオが呟いたのは予想外の言葉だった。

「さき……え?」
「本当はまだ告白なんてするつもりなかったんだ……"僕"はね。だけど夜の僕が先に告白しちゃって……あ〜!こんなことなら僕が先に……あ〜!」
「あ、あの……リクオ様?」
「彩乃ちゃん……すごく真っ赤になってたんだ。僕にはあんな顔見せてくれないのに……!」
「あ、あの〜……」

終いにはリクオは頭を抱えてあーとかうーとか唸り出してしまった。

(……よくわからないけど、彩乃さんにフラれた訳ではないのかしら……?)

昼も夜もどちらも性格や姿は違っても、同じリクオ様であることには違いないのに……

(リクオ様、悔しかったのね……)

事情はよくわからないが、昼の自分より先に夜の自分に先を越されて悔しくて落ち込んでいただけのようだ。
以外に元気そうなリクオに、氷麗はホッと安堵の息を吐いた。

(それにしても……彩乃さんは、なんて応えたのかしら……)

明日リクオ様に聞いたら教えてくれるだろうか?
氷麗は早く明日にならないかなと、はやる気持ちで空を見上げたのだった。

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