第236話「写真」

学校から家に帰ると、滋さんが庭でカメラを構えて何やら写真を撮っていた。

パシャ
「……滋さん?何撮ってるんですか?」
「ん?ああ、お帰り彩乃。掃除をしていたら古いカメラが出てきてね。まだ使えるか試してみたんだが……」
じじ……じじじ…… 
「変な音がしてますよ。」
「やっぱり駄目か。フィルムが絡まってしまったかな?」

壊れているのかその古いカメラは鈍い音を立て、それに滋さんは少し残念そうに目を細めた。

「昔は塔子さんと二人で旅行に行った時くらいにしか使わなかったから放っておいたけど、修理に出してこようと思ってね。修理が済んだら三人で撮ろう。」
「――え……」

思わぬ滋からの言葉に彩乃は目を大きく見開いて固まった。
驚く彩乃の心境など知らない滋は目を細めて笑うと、「楽しみだな」と言ってくれた。
それに彩乃は照れくさそうに頷いたのだった。

(――写真……か……)

両親を亡くし、親戚をたらい回しだった私を引き取ってくれた心優しい藤原夫妻。
血の繋がりの薄い私を本当の家族のように大切に扱ってくれる優しい人たち。
愛しい人たち……
いつか、二人にこの恩を返せるだろうか……

「おい彩乃。さっきから何を探しているんだ?」
「ん?んー……」
ガサゴソ

私服に着替えた彩乃は何を思ったのか押し入れからダンボールを引っ張り出して何かを探していた。
それに先生はかき氷を頬張りながら尋ねた。
彩乃は手を止めずにダンボールの中を弄ると、一冊の古びた本を取り出した。

「あ、あった。確かこれに挟んでおいた筈……」

彩乃が取り出した本は小学生が読むような簡単な内容の植物図鑑だった。
その本を開くと、中には一枚の写真が挟まっていた。

「む?何だそれは?」
「……私の両親の写真だよ。」
「そんなものあったのか。」
「両親が写ってるのはこれ一枚だけなんだ。」
「ほう……娘はあまりレイコに似てないな。どちらかと言えばお前の方が似ている。」
「そうかな?小さい頃は見るのが嫌だったんだけど、まあ……そろそろ見ても大丈夫かと……」
「……」
「彩乃ちゃーん!お友達が来てくれたわよー!」
「え……やだもうそんな時間!?はーい!」

塔子に呼ばれて時計を見れば、多軌たちと約束していた時間で、彩乃は慌てて写真を植物図鑑に挟むと部屋を出ていった。
慌ただしく階段を下りていく彩乃を見送り、ニャンコ先生は静かに呟いた。

「――レイコ……お前の孫は過去はどうあれ、幸せそうだぞ。お前はどうだった?お前は……あの時の選択を後悔していないだろうか……」

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