第249話「私のお父さんとお母さん」

「ちょっと待ちなさいよ!何なのよあの出ていき方!!」

三世子はひどく興奮した様子で彩乃に掴みかかると、大声で彩乃を怒鳴りつける。

「あんたはいっつもそうだった!お化けが見えるだとか気味の悪い嘘ついて、みんなの気を引いて、何もないのに一人でブツブツ喋ったりしてさ、あんたが変な態度とるからあんただけじゃなくて私まで虐められてたのよ!」
「三世子さん……」
「ちょっ、ちょっと落ち着いてください!」

三世子に激しい怒りをぶつけられ、彩乃は自分がずっとこの人を傷つけていたのだと知り、悲しげに目を細めた。
申し訳ない気持ちでいっぱいで名を呼ぶと、彼女はますます表情を歪めて彩乃を睨み付けてきた。
様子を見守っていたリクオは慌てて三世子を宥めようと声を掛けるが、逆効果だったようで、興奮していて周りが見えていない彼女は関係のないリクオまで怒鳴りつけた。

「なんなのよ!てか誰よあんた!関係ない奴は黙っててよ!!」
「僕は……」
「三世子さん落ち着いて。話を……」
「うるさい!!そうやっていっつも澄ました顔してさ、自分は他とは違いますってアピールしてんのがムカつくのよ!!」
「三世子さん……!」
(――あれ?)

ますます興奮してまるで話を聞こうとしない三世子に、彩乃はどうしたらいいのかと焦る。
しかし、ふと三世子から微かに何か違和感を感じて彩乃は訝しげに三世子を見つめる。

「あんたのせいで私がどれだけ辛い想いをしてきたか……あんたは知りもしなかったでしょう?」
「……あの……」
「なんとか言いなさいよ!!」
(――やっぱり……何か変だ……)

三世子の言葉がひどく心に突き刺さる。
けれど、違和感の正体を突き止めようと三世子をじっと見ていると、一瞬三世子から黒い靄のようなものが出てきたように見えた。

「――おい、彩乃。」
(……まさか……)

ニャンコ先生も何かに気付いて彩乃の名を呼ぶ。
しかし、気付いた時には遅かった。

「お父さんもお母さんも優しくしてやってるのに何が不満なの!?
可哀想なのは知ってるけど、変な態度でうちの親の気を引こうとしないで!
あんたのことで心配したり悩まされたり……私の……私のお父さんとお母さんなのに!!」
ぶわり
「――!?」
「彩乃ちゃん!うわっ!!」
「ぐっ!!」

三世子の心の奥底で我慢してきた感情が爆発するように、彼女が叫んだ瞬間、三世子の体からぶわりと黒い靄が勢いよく溢れ出てきて、それは側にいた彩乃までも包み込んでしまう。
彩乃の身を案じてリクオが名を呼ぶが、靄はどんどん大きくなってリクオと先生を吹き飛ばした。

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