第250話「リクオと先生」

三世子の体から溢れ出した黒い靄は、三世子と彩乃をすっぽりと包み込むと、穢れた瘴気を生み出した。
毒気を含んだ禍々しい瘴気はどんどん広がっていき、人間のリクオは息苦しさに顔を歪めた。

「……っ、彩乃ちゃん!斑!いったいどうなってるんだよ!」
「あの小娘……恐らくムシクイに取り憑かれてるな。」
「ムシクイって……さっきの妖怪だよね。」
「あの小娘の闇を喰って急激に大きくなったんだろう。あれだけでかくなったら、口が無くても人に取り憑くくらいのことはできるからな……」
「そんな!じゃああの人はどうなるんだよ!彩乃ちゃんは!?」
「彩乃は瘴気から出れば問題ない。……ま、取り憑かれた小娘はもう手遅れだろうがな。」
「そんな!」

リクオは瘴気の中心にいるであろう彩乃たちの方を見ると、瘴気は台風の様に渦を巻き、どんどん大きくなって広がっている様だった。
ニャンコ先生の言っていることが本当なら、恐らくは三世子の心を喰らって力をつけているのだろう。

「……っ、何とかしなきゃ……」
「やれやれ、仕方ないな。彩乃だけでも助けてやるか。」
「それじゃダメだ!二人共助ける方法はないの!?」
「あんな小娘のことなんぞ知らん。さっさと私の光であんな小者追い払ってくれる。」
「ダメだ!二人共助けるんだ!」

飽くまでも二人共助けたいと主張するリクオを、先生は鬱陶しそうに見ると、面倒くさそうに鼻を鳴らした。

「ふん。そんなにあの小娘を助けたければお前が勝手にやれ。
一度ムシクイに取り憑かれた者を無理矢理引き剥がせば心が壊れる。だが、私にはそんなことどうでもいい。どけ!」
「――ダメだ!」
「……いい加減にしろよ小僧!」

先生は苛立った様子でリクオに鋭い眼差しを向ける。
お互いに意見を曲げる気はないのか、リクオと先生はじっと互いの目を見据えるのだった。

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