第263話「線引き」

「――という訳で……宜しくね、河童たち。」
「了解、リクオ様。」
「夏目の姐御の為なら頑張ります!」

琴を作るために鯉の妖怪を捕獲すべく、リクオたちは河童たちに協力を頼むことにしたのであった。
一匹は奴良組の河童で種類は「池河童」。
因みに本当かどうかはわからないが、名前は無いのだと言う。
そしてもう一匹は彩乃の仲間であり、夏目組の一人、「川河童」である。
河童たちは元気よく返事をすると、さっそく池に潜って鯉を探しに行ってくれた。

「――最初からこいつ等に頼めば良かったんじゃないか?」
「そういう訳にもいかないでしょ?あくまでもこれは私たちの問題だもん。さっ!私たちも探そう蛇の目さん!」
「おう!」
「……やれやれ。」

ニャンコ先生の言葉を即座に否定すると、彩乃は虫取り網を持って、池へと入っていく。
そんな彩乃たちを見て、ニャンコ先生は付き合いきれないと呆れたように首を振るうのだった。

ザブザブ
バシャン
「今日まで何匹かの鯉を捕まえたけど、本当にいるのかな?もしかしたら、別の池とかに……」
「いや、線引きは一つの池に必ず一匹はいる筈なんだ。食われていない限りは……」
「じゃあ、もしかして……「いたよー!」ええっ!?」

彩乃が少し諦めモードに入り、もしかしたらこの池にはいないのではないかと思い始めた矢先、池河童がなんともあっさりと線引きを捕獲していた。
あまりにも驚きすぎて、目と口を大きく見開いた状態で叫んでしまった。

「でかしたぞ!ほら見ろ夏目。口に釣り糸がついているだろう。」
「……本当だ。」
「『良甲』っていう仙人がいてな。これを釣ろうと国中を旅しているらしいが、こんな風にいつでもどこでも糸を切られて逃げられてるんだ。」
「へぇ……」
「この糸を弦に使う。」
「……ああ、じゃあ材料集めはこれで終わり……」
「次は胴だ。『地表に頭を出す際の竹の子に貫かれている切り株』を探すんだ。」
「え……まだ……あるの?」
「当然だ。さあ、次は山に行くぞ!」
「……う……うん……っ」
(――あれ?なんか……)
ふら……
ばたーん!!
「彩乃ちゃん!?」
「彩乃さん!」
「夏目!」

突然倒れてしまった彩乃に、リクオたちは大慌てで駆け寄る。
しかし、彩乃はぐったりと目を閉じて、既に気を失っていたのだった。

******

ゆらゆらと、まるで揺り篭に揺られている様な、そんなまどろみの中、彩乃はうっすらと目を開けた。
体がふわふわと浮いて、足が宙に浮いている様な感覚。
――まるで誰かにおんぶされている様な……

(――蛇の目さん?)
「……もう少し。」
「もう少しで……弾かせてやれる。」
「……」

彩乃が聞いているとも知らない蛇の目さんは、どこか切実な声でそう呟いた。
そんな彼に声を掛けられる訳もなく、彩乃はそっと目を閉じて、寝たふりをするのであった。

――蛇の目さんは?
蛇の目さんはどうして……磯月の森を出てきたのかな……

ゆらゆらと揺れる心地よい揺れと、蛇の目さんの背の温もりを感じながら、彩乃はふとそれが気になった。

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