第21話「救いの一言」

「……僕はこの子の言うこと、信じていいと思う。」
「リクオ様!?」

突然のリクオの言葉に氷麗は戸惑ったようにリクオを見る。

「そうじゃなぁ〜、このお嬢ちゃんは嘘はついとらん。……よし、ワシら奴良組も協力しよう!」
「「ええっ!?」」
「ちょっ、総大将ぉぉお!!!」

ぬらりひょんの突然の協力発言にその場にいた妖怪たちが驚きの声を上げる。
鴉天狗に至ってはぬらりひょんに詰め寄っていた。

「本気で言ってるんですか!?」
「冗談で言うか。おもしれぇじゃねぇか。ワシら妖怪相手に怯えることなく、真っ直ぐな目ではっきりと自分の意思を宣言したんだ。レイコとは違った考えも持ってるみてぇだしな……ワシはこの娘気に入った!」
「あぁぁぁあ!また総大将の悪い癖がぁっっ!!」
「……えっ、えーと……」
「そういう訳じゃ、お嬢ちゃん。これからはワシら奴良組総出で名を返すのを協力しよう!」
「……ほ、本当に?」
「もちろんじゃ!ワシは一度交わした約束は、余程のことがない限り破らんぞ?」

あまりにも突然の急展開に、彩乃は戸惑い気味に尋ねる。
するとぬらりひょんはにかっと笑って頷いた。

「……何か企んでいるんじゃないか?」
「お前さんと一緒にするな、斑!……なぁに、単なる気まぐれじゃよ。」
「総大将ぉ!このような大事なこと、そんな簡単に決めないでくだされ!」
「鴉はうるさいのぉ……これは命令じゃ!異論は認めん!」
「そっ、そんなぁ〜!」

等々『命令』という発言までしてしまい、奴良組の妖怪たちは納得など到底できないが、命令となれば仕方ないと黙るしかなかったのだった。

「い、いいのかなぁ〜……」
「ぬらりひょんの言葉には誰も逆らえん。あ奴が言い出した事だ、気にするな。逆にやり易くなったのだから喜んだらどうだ?」
「そうは言っても……」

ちらりと横目で周囲に目を配ると、妖怪たちは険しい表情でひそひそと話し合っていた。
ちらちらとこちらに感じる視線は、決して穏やかなものではない。
彼等が納得していないのは明らかだった。

(……何はともあれ、手伝ってもらえるのはすごく有り難いし、甘えさせてもらっていいのかな……?)

友人帳に綴れた名を妖に返し始めて数ヶ月。
彩乃は未だに全ての名を返し終えてはいない。
友人帳には、奴良組の妖たちの名もあるとニャンコ先生は言っていた。
これだけ大きな組織の奴良組の妖たちに協力してもらえれば、もっと効率よく名を返せるかもしれない。
自分の力で解決できればそれが一番いいのだが、一人の力には限界がある。

(ここは、素直に協力してもらった方がいいのかもしれない……)

多くの妖怪たちが納得していないのはわかっているし、申し訳ないとも思うが、ここはぬらりひょんの……奴良組の力を借りることにしよう。

「……よろしくお願いします。」

彩乃はそう考えてから、三つ指をついて頭を下げた。

「わわ、頭を上げてよ!困ってる人を助けるのは、普通の『人間』なら当然だし!」
「……え?(人間?)」

今何か変な単語が聞こえたような……
妖怪である筈の彼から、『人間』という言葉が出なかっただろうか?
彩乃は思わず自分の耳を疑った。
しかし、リクオは気づいていないのか、にっこりと爽やかな笑顔を浮かべて彩乃に手を差し伸べると、握手を求めた。

「僕は奴良リクオ。浮世絵中学一年生。因みにぬらりひょんは僕のお祖父ちゃんなんだ。これからよろしくね!」
「あ、うん……夏目彩乃です。二年です。」
「あ、あれ?先輩だったの!?」
「……うん。この前学校で会ってるんだけど……」
「えっ!?……あー……あっ!あの時花開院さんと廊下で話してた人?!」
「うん。」
「……」

握手を交わしながら仲良く話す二人を、少し離れた所からじっと恨めしそうに睨み付けている人物がここに一人……

(人間の小娘が小娘が小娘が小娘が小娘がぁぁあ!!)

ぎりりと歯を食い縛り、然も悔しそうに彩乃を睨み付けているのは雪女にして、リクオの側近の氷麗だった。
氷麗は突然現れた女で、しかもあのレイコの孫である彩乃がリクオと仲良さげに話しているのが気に入らないようだ。
そしてそんな彼女の事などまったく気づかない彩乃とリクオなのだった。

*****

「彩乃、私はぬらりひょんと少し話がある。お前は先に帰っていろ。」
「そう?わかった」
「……あの。」
「……え?」

それから話し合いは無事に終わり、そろそろ家に帰ろうとした彩乃だったが、不意にニャンコ先生がそんなことを言い出したので、彩乃は一人で帰ろうとしていた。
そんな時、躊躇いがちに彩乃に声をかけてきたのは首無だった。

「……何か?」
「いや、その……少し、話をしてもいいかな?」
「……え?」

突然自分に声をかけてきた人間のような姿をした妖。
彼は見た目は確かに人間なのだが、彼には本来なら人間にはある筈の首がなかった。
顔だけがふよふよと体から離れて宙に浮いている。
その異様すぎる姿に若干びびりながらも、彩乃は小さく了承の意味を込めて頷いたのだった。

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