第27話「葉っぱの傘」
「……何だか、雨が降りそうだね……」
放課後、学校を出ると今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。
「早く帰ろう、先生!」
「濡れるのはごめんだからな。走れ、 彩乃!」
「も〜、先生ってば……「あれ?夏目先輩?」
傘を持ってきていない彩乃は早く帰ろうとすると、リクオに話しかけられた。後ろには氷麗もついてきている。
「あっ、 奴良くんたち。今帰り?」
「はい。先輩はどうしたんですか?何か困ってるみたいですけど……」
「……ああ、何だか雨が降りそうだなって思って。」
「雨?」
そう言って空を見上げる彩乃に釣られて、リクオと氷麗も空を見上げた。
「そういえば、今日は夕方から雨だったっけ……」
「大丈夫ですリクオ様!この雪女、ちゃんと傘を用意しておりました!」
そう言って鞄から折り畳み傘を二本取り出す氷麗。
「はい、リクオ様!」
「ああ、うん。ありがとう。でも……」
笑顔で傘を手渡す氷麗に戸惑いつつも傘を受け取るリクオ。
そして、彩乃に視線を向けた。
「夏目先輩は傘、持ってないんですか?」
「えっ?うん。だから急いで帰るつもり。」
「あっ、だったら僕の……「だったらこんな所で喋ってないでさっさと帰った方がいいわよ?」
「うん、そうするよ……じゃあね、 奴良くん、及川さん!」
「あっ!先輩!」
リクオが呼び止めるも、彩乃は走り去ってしまった。
小さくなっていく少女と猫の姿を見送りながら、リクオは小さく吐息を吐く。
「……行っちゃった……氷麗ってば、何で話を遮ったの?」
「……だって、リクオ様が心配なんです。」
「心配?夏目先輩は悪い人じゃないだろ?」
「も〜!リクオ様には乙女心がわからないんですっ!」
「??」
頬を膨らませてそっぽを向く氷麗に、リクオは不思議そうに首を傾げるのだった。
*****
一方その頃の彩乃たちはと言うと……
「――何だか私、雪女……及川さんに嫌われてる気がするなぁ〜……時々睨まれてる気がするの。」
「今更気づいたのか。鈍い奴め。」
「何でだろ〜?」
「……はあ。」
彩乃は何故雪女から冷たくされるのかわからずに、不思議そうに先生の言葉に首を傾げるのだった。
*****
ポッ、ポッ、ポッ
浮世絵駅から地元の駅に着く頃には、ポツポツと雨が降り出していた。
「あ〜……等々降り出しちゃったかぁ〜」
「お前がのんびりとしておるからだぞ!」
(鞄を傘代わりに家まで走っても、もっと雨が降ったらやだなぁ〜)
ガサリッ
「……ん?」
困り果てていると、茂みが微かに揺れて、彩乃と先生はそちらに視線を向けた。
「……葉っぱ?」
そこには何故か人一人入れそうな大きなフキの葉が落ちていた。
(……何でこんな所に?)
「……あっ。」
キョロキョロと視線をさ迷わせると、茂みの中からこっそりと顔を出してこちらの様子を窺っている子狐を見つけた。
(……もしかして、朝からずっと私を待っててくれたのかな。)
あまりにもタイミングよく再会するものだから、そんなことを考えてしまう。
「……ありがとう。」
「!」
彩乃はこのまま懐かれても可哀想だとも思ったが、せめてお礼だけは言っておきたくて、思わず感謝の言葉を口にしていた。
ふわりととても柔らかに優しい笑みを浮かべてお礼を言われ、子狐は顔を輝かせて嬉しそうに尻尾を振り回した。
「……じゃあね。」
「あっ!」
彩乃はあまり会話をして情が移る前に立ち去ろうと、踵を返した。
名残惜しそうな子狐の呟きを耳にして足を止めそうになったが、彩乃はぐっと我慢して走り出す。
「……はあ、はあ……もう、大丈夫かな?」
「ああ、もういないぞ。」
「……はあ……あの子、大丈夫かなぁ……」
「たく、しっかりほだされおって。」
「だって……」
あの子狐は遭う時、いつも一人だった。
もしかしたら、あの子には家族がいないのかもしれない。
昔の私と同じように、独りぼっちで、寂しくて、誰かと繋がりたくて、構って欲しいのかもしれない。
「……」
「……おい、彩乃。余計なことは考えるなよ?」
「……先生……やっぱり私、あの子と話してくる!」
「アホーッ!やっぱり情が移っとるではないかぁ!!」
ニャンコ先生が何やらぶつくさと文句を言っているが、最早彩乃は聞いてはいなかった。
あの子狐が気になった彩乃は、子狐を探すべく走り出すのだった。