第45話「馬頭丸」

清継たちをヒノエとカゲロウに任せ、彩乃は階段を急いで駆け下りていた。

「待って!その人をどうするつもりなの!?」
「おや?君は……?」

慌ててニャンコ先生と共に妖怪先生を追いかけると、彩乃は木の上に居る妖を睨み付けた。

「あなたこの人のこと操ってるでしょ?この人や私達をどうするつもりなの!?」
「……へぇ〜、人間のくせによくこの糸に気づいたねぇ〜」
プッツン
「はれ?僕は何でこんな所に……?」
「そいつにはもう用はないから解放してあげるよ」
「ひっ!ばっ、化け物!?」
「早く逃げてください!」
「ひいっ!あわわわっ!!」

何故突然妖怪先生を解放する気になったのかはわからないが、骨の妖怪は男性についていた糸を切ると、妖怪先生は我に返ったようにきょろきょろと辺りを見回し、妖怪の存在に気づくと彩乃を置いて一目散に逃げて行ってしまった。

「……ふう、逃げてくれて良かった。」
「阿呆!何故声を掛けた!!」
「だって先生……」
「ちょっと、僕を無視するな!お前、レイコの孫だろ?牛鬼様から聞いてるよ」
「あなた、レイコさんを知ってるの!?」
「知ってるも何も、レイコは……」
「彩乃。あいつは牛鬼の手下の馬頭丸という妖だ。糸を使って人や妖を操る事に長けている。気をつけろ!」
「ん?その声……お前斑か!?」

馬頭丸はニャンコ先生の正体に気づくと、その姿の変わり様にケラケラとお腹を押さえて爆笑し出した。

「あっははは!何だよその姿!!」
「……くっ、どいつもこいつも私を馬鹿にしおって……去れ!!」
どろんっ!
カッ!

先生は斑の姿に戻ると、眩い退魔の光を放って馬頭丸を威嚇する。
すると馬頭丸はすっかり油断していた為、もろに光を浴びてしまった。

「ぎゃああっ!あ、熱い!!」
「とっとと失せろ!!」
カッ!

先生は容赦無く光を更に強く放ち、耐えられなくなった馬頭丸は何処かへと去って行った。
辺りは静寂が戻り、彩乃は馬頭丸が去ると安堵の息をついた。

「……良かった。戦いにならなくて……」
「しかし奴がこれで諦めたとは限らんぞ?」
「わかってる。でも……彼は奴良組の妖だよね?どうして人を操ってまで私達に接触してきたんだろう。」
「おそらくは友人帳を狙っているのだろう。牛鬼の奴はお前が気に入らんようだったからな……」
「牛鬼……」

彩乃の脳裏に、奴良組を訪れた際に初めて会った時の彼の威圧的な態度を思い出して、彩乃の表情が曇る。

「……やっぱり、人間の私が友人帳を持ってるのが気に入らないのかな?」
「それ以外にないだろう?」
「だとしたら、私のせいでみんなが危険な目に遭うって事だよね?どうすれば……」

自分が合宿に参加したせいで清十字団のみんなが襲われたりなどでもしたら、きっと自分はもう二度と誰かと繋がりを持とうとはしなくなるだろう。
何より、そんな事になったら自分が許せない。
彩乃は今からでも自分が山を降りれば大丈夫なのではないかと考えていた。

「……言っておくが、まだ奴の……奴等の目的が友人帳と決まった訳ではないぞ?憶測で行動し、お前が離れたせいであ奴らが襲われても側に居なければ私はどうすることもできん。」
「先生……」
(それはつまり、このまま奴良くん達と行動を共にしていた方がいいってこと?)

遠回しに、近くに居れば守ってやると言ってくれたような気がして、彩乃は嬉しくなった。

「先生……ありがとう!」
「……ふん」

彩乃が感謝の気持ちで笑顔になると、先生は照れ隠しなのかそっぽを向いてしまった。
それに彩乃は小さく笑うと、みんなの所に戻ろうと足を進める。

「戻ろう、ニャンコ先生。私達がみんなを守らなきゃ!」
「『私』がだろうが。馬鹿タレ!!」

ぶつくさと文句を言いながらもいつだって自分の力になってくれる。
心強い用心棒と共に、彩乃はみんなを絶対に守ろうと心に固く誓うのだった。 

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