第46話「牛鬼組」

太く大きく成長した大木は、人一人乗っても容易に折れる事は無い。
そんな立派な大木が生い茂る山奥、大木の枝の上で一人の少年が誰かを待っていた。
一見人間の様に見えるその少年は待ち人が近づいて来た気配を感じてそちらを振り返る。

「……やっと来たか馬頭丸。首尾良くいったか?」
「はあはあ……そ、それどころじゃないよ!こっちは大変だったんだ!!」

斑によって追い払われた馬頭丸は、必死に逃げてきた為、疲れた様子で息も絶え絶えだった。

「どうした?何かあったのか?」
「あいつだ!斑か来てるんだよ!それにレイコの孫とか言う娘も!!」
「何だと!?」

馬頭丸の言葉に少年━━牛頭丸の顔色が変わる。
その名を聞いた瞬間、彼の目が殺意と憎悪に染まる。

「レイコ……あいつの孫が来てるのか!?牛鬼様の名を奪った人間の娘が……」
「うん、レイコと瓜二つだった。きっと友人帳も持ってるよ!……何故か斑も居たけど……どうする牛頭丸!?」

焦った様に冷や汗を流す馬頭丸。
対して牛頭丸は何かを考える素振りをしていた。

「あいつ等に姿を見られたのか?」
「うん。……ごめん!でもあいつ等、山を降りるつもりは無いみたいだ!」
「……そうか。」

山を降りないと言う馬頭丸の言葉を聞いて、牛頭丸はにやりと口角を吊り上げた。

「だったらいいさ。リクオも友人帳も俺達でどうにかするんだ。牛鬼様の手を煩わせるまでもない。」
「それじゃあ牛頭丸……」
「ああ、リクオを倒し、友人帳も手に入れる。その為にもまずは奴等をバラバラにすること。そして……一人ずつ片付けることだ。」

*****

「ええっ!?牛鬼組に襲われた!?」
「い、いや、そんな襲われたって程でも……」

馬頭丸を追い払ってから別荘に戻った彩乃たちは、あれからすぐにリクオに報告した。

「何処のどいつだい!私の彩乃に手を出した不届き者は!?呪ってやる!!」
「落ち着いてくださいヒノエ殿」
「うるさいよカゲロウ!!」

彩乃が襲われたと知ったヒノエは激怒する。
それをカゲロウは必死に宥めるのだった。

「ねえ氷麗、牛鬼組って牛鬼の……」
「はい。牛鬼様率いる組で、奴良組の中でも相当な武闘派の組です。」
「あの妖怪先生って言う人を操っていたのは馬頭丸って言う妖だったよ。」
「馬頭丸……聞いたことないわね。」

彩乃から妖怪の名を聞いても、氷麗は思い当たらないようだった。
リクオは困ったような表情を浮かべると、決意したように氷麗に言う。

「こうなったら僕等でみんなを守るしかないよ。何でうちの組の奴等が夏目先輩を襲ったのかはわからないけど……」
「多分、理由は友人帳だと思う。だから、私達にも何か力になれたら……」
「ちょいと待った。『私達』っていうのは私も入ってるのかい?」
「お願いヒノエ、カゲロウ。力を貸して!」

ヒノエが嫌そうに問いかけてくるので、彩乃はヒノエたちに力を貸してくれるようにお願いした。
真剣に見つめてくる彩乃の目を見て、ヒノエは諦めたようにため息をつくのだった。

「……はあ、しょうがないねぇ〜……私と彩乃の仲だ。協力してやるよ。」
「もちろんワタクシも協力致します!」
「二人共……ありがとう!」

二人の協力を得られた彩乃は、感謝の気持ちを込めてお礼を言うのだった。

「そういう訳だから奴良くん、私達もみんなを守るよ!」
「でも……ううん、ありがとう先輩!」

人間である彩乃を巻き込むのは気が引けるリクオだったが、力の無い自分と氷麗一人だけでは清十字団のみんなを守る事は出来ない。
だからリクオは今回は素直に彩乃とその友人たちの力を借りることにした。
果して、彩乃たちは無事にこの山の夜を明かすことが出来るのだろうか……

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