第47話「不穏」
「そういえば気になってたんですけど、夏目先輩は祓い屋だったんですか?」
「え?違うよ。ゆらちゃんが言ってたのはちょっと勘違いで、祓い屋の知り合いはいるけど、私は何もできないよ。」
「それじゃあ、先輩は妖怪を退治したりはしないんですね?」
「うん、そんな凄いこと私一人じゃ出来ないよ。……まあ、今は少しだけ術が使えた方が奴良くん達の役に立てたかもしれないけど……」
リクオたちと協力して清十字団のみんなを守ろうと決意したのはいいが、彩乃は自分が足手まといであることを気にしていた。
妖怪を倒したいとは思わないが、せめてみんなを守れるように何か術の一つでも覚えておけば良かったと後悔した。
「守るとか言っておいて、何も出来なくてごめんね」
「そんな!先輩に無理をしてほしい訳ではないんです!だから約束してください。今回、もし妖怪に襲われたとしても無茶だけはしないで下さい」
「うん。わかったよ奴良くん。」
タマの件で彩乃は妖怪相手でも構わず無茶をする人だとなんとなくわかったリクオは、約束をしてもらえて少なからずほっとした。
「……そういえば、ゆらちゃん達は何処に……」
「おーい、夏目せんぱーい!」
リクオと話し込んでいると、少し離れた所から彩乃を呼ぶ巻たちの姿があった。
「女子は先にお風呂入っていーて!」
「私達、先に入ってますね〜!先輩も早く来てください!」
「あ、うん!わかったー!」
どうやら彩乃を呼びに来てくれたようだ。
彩乃は元気よく返事をすると、準備をしようと一度部屋に戻る事にした。
「じゃあ奴良くん、私行ってくるね。雪女……及川さんもどう?」
「えっ……わ、私はいいわ。」
「そう、わかった。」
無理強いはよくないと彩乃はあっさりと頷いた。
少し残念だと思うが、自分は何故か及川さんに嫌われているようなのであまりしつこくしない方がいいだろう。
*****
「少し遅くなっちゃった。みんなもう入ってるかな……」
部屋に荷物を置いて、必要な物だけ持ってお風呂に向かっていると、リビングには誰も居なかった。
「奴良くん達も部屋に戻ったのかな?」
「大変です彩乃様!」
「どうしたのカゲロウ?」
誰も居ないことを不思議に思っていると、玄関で待っていたカゲロウが慌てて駆け寄ってきた。
「リクオ殿達が外へ……外へ出ていってしまいました!!」
「ええーーっっ!?」
「ど、どうして外なんかに!?夜の山は危ないってわかってる筈だよね?」
「それが……清継殿が妖怪を探すと言って島殿と……それを止めようとリクオ殿と雪女が後を追いまして……」
「なんてこった……」
彩乃は青ざめると、四人を追うべく自分も外へ向かうことを決めた。
「ヒノエ、カゲロウ、ゆらちゃん達をお願いしていいかな?私とニャンコ先生は奴良くん達を追うから!」
「何ー!温泉は!?」
「そんなの後だよ!」
「何で私がそんな面倒なことを……彩乃の玉の肌が拝めないじゃないか!」
「ヒノエ……」
「ここはワ私にお任せください!このカゲロウ、必ずや役に立ってみせます!」
「ありがとう!頼れるのはカゲロウだけだよ!!」
全く頼りない先生とヒノエより、健気なカゲロウの言葉に彩乃は感激して彼の手を握り締めた。
「コラ彩乃!男の手なんか握るんじゃないよ!!」
「ヒノエは黙ってて!ここはお願いしていいかな?女の子達をヒノエや妖から守って!」
「はい!お任せください!!」
「ちょいとお待ち。何で私まで危険扱いされてるんだい!?」
「ヒノエは女の子好きだから信用できない!お風呂覗かないでね!?」
「なっ!」
大好きな彩乃に信用できないと言われ、ヒノエは激しく落ち込んだ。
部屋の隅で踞って落ち込むヒノエを放っておいて、彩乃はカゲロウと話していた。
「万が一何かあった時はみんなをお願い!」
「はい!このカゲロウ、全身全霊をかけて役目を全うしてみせます!」
「あ、ありがとう。でも……無理だけはしないでね?」
「はい!」
気合い十分に返事をするカゲロウに、彩乃はみんなをお願いしてリクオ達を追うのだった。