レイコと鯉伴のその後の物語

これはまだ、レイコが奴良組の元へと通い詰めていた頃のお話。
レイコと鯉伴が出会って、数ヵ月が経った頃の話である。

「レイコー!今日こそワシと勝負しろー!!」
「嫌よ。あなたとは一番最初に勝負したじゃない。一ツ目入道。」
「じゃーかしい!勝ち逃げなんぞワシが許さん!もう一度勝負しろっ!!」
「嫌よ。私は一度負かした奴とは二度と勝負しないわ。」
「レイコー!!」
「……煩いわねぇ。えいっ!」
プスリ
「んぎゃあーーーっっ!!」

毎度毎度奴良組を訪れる度にこうして一ツ目に勝負を挑まれるレイコは、いい加減うんざりとばかりに冷たくあしらった。
そんなレイコの適当な態度にもめげずに一ツ目がしつこく勝負を要求すると、 レイコは一ツ目の剥き出しになっている大きな大きな目玉に指を突っ込んで目潰しを食らわせたのだった。
あまりの激痛に悲鳴を上げる一ツ目。
そんな二人のやり取りを見ていたぬらりひょんは口を開けて愉快そうに大笑いする。

「ははは!一ツ目よぉ、相変わらずレイコにフラれてるようじゃのぉ〜。レイコも容赦ねーなあ!」
「あらぬらりひょん。また私と勝負してよ。今日こそ私が勝つわ!」
「おまっ!ワシとはあれだけ頼んでも勝負してくれんのに!!」
「妬くな妬くな一ツ目。よしレイコ、今日は何で勝負しようかのぉ。この前やった『だるまさんがころんだ』は中々いい勝負だった。」
「そうねぇ、今日は……「よおレイコ。来てたのか。」

レイコはこの所いつもぬらりひょんに勝負を挑んでいるのだが、いつもいいところで負けてしまい、今のところ一度も勝てていない。
一ツ目を無視してぬらりひょんと勝負しようとするレイコだったが、彼女の言葉を遮ってある男の声が響いた。

「あら鯉伴。今取り込み中なのどっか行って。」
「つれないねぇ。相変わらず親父とばかり話してるのかい?」
「さあぬらりひょん、勝負しましょ!」
「聞けって。」
「あなたは後よ。」
「なあレイコ。今日こそ俺と夫婦になろう。」
「嫌よ。」
「即答かよ。」

鯉伴からのプロポーズをなんともあっさりと流すレイコ。
告白を断られたというのに、鯉伴はまったく落ち込んだ様子もなく平然としていた。

「相変わらず俺にはつめてーな。そんなとこがまた可愛いんだが。」
「何度言われても私はあなたと結婚する気はないわ。生憎、妖にはそっちの意味では興味はないの。」
「こんな色男他にいねーぜ?」
「私は人間がいいわ。」
「おいおい、妖だって理由でフラれても俺は諦めねーぜ。ぜってーお前を幸せにするからよぉ。」
「遠慮するわ。」
「ぷはっ!鯉伴も流石にレイコには形無しだなぁ。」

鯉伴とレイコの会話を見守っていたぬらりひょんは、熱いアプローチをしているにも関わらずまったく相手にされない鯉伴を可笑しそうに笑う。
そんな父親に、鯉伴は恨めしそうにぬらりひょんを睨み付ける。

「おい親父笑うなよ。俺は本気なんだからよぉ。」
「情けないのぉ。毎度毎度想いを告げてもレイコに見向きもされんとは……それでもワシの息子かい?」
「うっせ!」

鯉伴はぬらりひょんを鬱陶しそうに見ると、やれやれと肩を竦めた。

「レイコもいい加減素直になって俺を受け入れりゃいーのによぉ。」
「あら?私はいつだって自分に素直よ。」
「そーかい。」

鯉伴は深くため息をつくと、レイコはクスクスと可笑しそうに笑い、ぬらりひょんににっこりと笑いかけた。

「さあぬらりひょん、勝負よ!」
「よし、一先ず外に出るかのぉ。」
「ええ。」

そう言ってレイコもぬらりひょんも庭へと出ていってしまう。
一ツ目はそれを恨めしそうに見送り、鯉伴は複雑そうに見つめていた。

「……いつかぜってぇ振り向かせてやるぜ。レイコ……」

鯉伴は誰にも聞き取れないような小さな声で呟いたのであった。

- 5 -
TOP