第50話「救世主」

「ちっ、もう来やがったか……」

突然の斑とリクオの登場に一瞬驚いた牛頭丸だったが、すぐに状況を理解してじっとこちらの様子を探るように見据えてくる。
それに立ち上がったのは氷麗だった。
よろよろとふらつく体を叱咤して立ち上がろうとする氷麗をリクオが止める。

「リクオ様……下がってて……ください。私が……やらなきゃ……」
「馬鹿言うな。お前……大怪我してるぞ。」
「及川さん、無理しちゃ駄目だよ。」
「でも……私がやらなくて……誰がリクオ様を守るんですか!!」

リクオと彩乃の制止の声に氷麗は聞けないと叫ぶ。
そして一歩踏み出そうとして足に激痛が走り、ふらりと体が傾いた。
それを近くにいた彩乃が慌てて抱き止める。

「ハハハ……ざまあねえな。そんな弱っちい娘に守ってもらわなきゃーならない妖怪の総大将なんてよ……そんな奴、不要だと……思わねえか?」

にやりと笑いながらゆっくりとこちらに近づいてくる牛頭丸に、彩乃はぞくりと恐怖を感じる。
それに斑は牛頭丸を威嚇するように身を低くして唸る。

「貴様……牛鬼の手下の……確か牛頭丸だったな。貴様等がぬらりひょんの孫をどうするつもりかは知らんが、友人帳と彩乃を狙うのならば容赦はせんぞ!!」
「斑か……なんだったらてめーが相手になってもいいぜ?そんな弱っちー雪女に守ってもらわなきゃ駄目な半妖なんかや人間の小娘より、お前の方がずっと相手のしがいがあるぜ。」
「ふん、上等だ!!」
「待て斑。」

今にも牛頭丸に飛びかからんとしている斑を止めたのはリクオだった。
ちらりと彩乃と氷麗を見た後、ゆっくりと一歩前に出る。

「"俺"がやる。」
「リクオ様!?」
「奴良くん!?」

リクオの言葉に彩乃と氷麗はぎょっとする。
それもその筈、今のリクオは人間であり、妖怪の牛頭丸相手に敵う筈などないのだから…
無謀にも戦おうとするリクオを止めようと氷麗はふらふらと立ち上がる。

「駄目ですリクオ様!リクオ様は人間なんです!もしリクオ様に何かあったら私は……!!」
「いーから、心配しなくていい。」
「奴良くん?」

何だかいつもと雰囲気の違うリクオの異変に気付いた彩乃は、不安そうにリクオの名を呼ぶ。
するとリクオは彩乃の目を見て笑う。

「氷麗を頼んだ。"彩乃"。」
「――え?」

リクオは彩乃に氷麗を託すと、どこからか刀を取り出して牛頭丸と対峙する。
それに彩乃と氷麗は顔色を変えた。

「待って奴良くん!!一人じゃ……「待て」

リクオを呼び止めようとする彩乃を斑が制し、彩乃は思わず声を荒げてしまう。

「どうして止めるの先生!?このままじゃ奴良くんが……!!」
「いいから黙って見ていろ。……奴はもう、『こちら側』の住人だ。」
「「……え?」」

斑の言っている言葉の意味がわからずに、彩乃と氷麗は困惑してしまう。
しかし、この後彩乃達は斑が言っていた「こちら側」という言葉の意味を知ることになる。

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