第51話「夜のリクオ」

「死ね、奴良リクオ!!」
「リクオ様ぁ!!」
「奴良くん!!」

牛頭丸とリクオは少しの間睨み合った後、先に攻撃を仕掛けてきたのは牛頭丸の方だった。
勢いよく刀を振り下ろす牛頭丸の一太刀を、リクオは寸前のところで受け止める。

「!?」
「……受け止めた!?」

リクオが攻撃を受け切った事に驚く牛頭丸。
それは彩乃と氷麗も同じで、人間であるリクオが妖怪である牛頭丸の攻撃を防いだことが信じられなかった。

「……フン、この牛頭丸の『爪』が腑抜けにかわせるか!!」
「……っ、先生!!」

怒りを露に吠える牛頭丸に彩乃は先生に加勢を頼もうと名を叫ぶ。
しかし、当の斑は静かに二人の戦いを傍観するだけで、手を貸す気はないようだった。

「先生、奴良くんを助けないと!!」
「落ち着け阿呆。奴なら一人で大丈夫だ。よく見ていろ。」
「何言って……」

このままではリクオが殺られてしまうと焦る彩乃とは違い、斑は何かを悟ったように落ち着いていた。
斑の視線の先にいる二人に彩乃も視線を戻すと、信じられない事が起こっていた。

キン!キン!ギィィン!! 
「……若?」
「……嘘……」

その信じられない光景に、彩乃と氷麗は言葉を失った。
何故なら、人間のリクオが妖怪である牛頭丸と互角に渡り合っていたからだ。
牛頭丸が刀を振り下ろせばそれを受け止め、時に受け流し、時にかわし、隙をついて自分から斬り込んでいく。
妖怪として覚醒したリクオならまだしも、昼のリクオがこんなに強いなんてと、二人は困惑してしまう。
全ての攻撃がかわされ、一太刀もリクオに浴びせることが出来ない牛頭丸は悔しげに歯を噛み締める。

「……くそっ、くそくそくそくそぉぉぉーー!!牛頭陰魔爪!!」
「……くっ!」
ガッ!

牛頭丸は大きく刀を振り下ろすも、リクオにあっさりと受け止められてしまう。
しかし、牛頭丸の本当の狙いは別にあった。
彼は小さく何かを呟くと、途端にリクオの動きが鈍くなる。

「……不味いな。」
「……えっ!?」

ずっと傍観していた斑がそう呟いた瞬間、リクオの体がふらついた。

「リクオ様!危ない!!」
「くっ!」

氷麗の叫び声で我に返ったリクオだが、その瞬間、牛頭丸の背中から巨大な二本の爪が現れた。
牛頭丸の爪はリクオ目掛けて勢いよく襲い掛かり、リクオの体を傷付けていく。
牛頭丸の刀を受け止めていたリクオはその爪の攻撃を防ぐことが出来ず、もろにダメージを受けてしまった。
小さなリクオの体が血と共に飛ばされる。

「ああ!!」
「奴良くん!!」
「牛鬼組は人を操り、惑わし引き寄せ殺す。人間風情に負ける筈が……ねーんだ!!」

牛頭丸は倒れているリクオに止めを刺そうと駆け出す。
それに氷麗は堪らず助けようと駆け出そうとする。

「リクオ様ぁ!!……うっ!」
「及川さん!?……先生!お願いだよ!!」
「……」

足の痛みで跪いてしまう氷麗を彩乃が慌てて抱き止める。
このままでは本当にリクオは殺されてしまう。
彩乃は懇願するように斑に頼むが、やはり斑は傍観していて、加勢しようとはしない。
そうこうしている間に立場が逆転し、リクオは追い込まれてしまっていた。
一本の刀と二本の爪。
それらの攻撃を全て受け止め切れず、リクオはどんどん傷付き追い詰められる。

「これで最後だよ!!」
「やめてーーっっ!!」

思わず悲痛な叫び声を上げる彩乃。
しかし、結末は以外なものとなった。

「何故だ……妖怪でもねぇてめぇに……」
「血なら流れてる。悪の……総大将の血がな……」

リクオは六本に増えた牛頭丸の爪を全て切り落とし、更に牛頭丸自身を斬りつけていた。
一瞬でついた決着に、牛頭丸は何が起こったのか理解できず、驚愕の表情を浮かべて倒れ込んだのだった。

「奴良くん……」
「もう、大丈夫だ。」

呆然とする彩乃達にリクオはゆっくりと振り返る。

「知ってたよ。自分の……こと……夜、こんな姿になっちまうんだな。」

振り返ったその姿は正しく妖怪の姿のリクオ。
しかし、この時見たリクオの表情は、泣いていないのに、何だか涙を流しているように彩乃は感じたのだった。

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