第54話「三羽鴉」

「……くそっ、くそっ!陰陽師に加えて使役妖怪かよ!牛頭丸の奴……何が『三代目のいない楽な方』だ!!ちくしょ……しっかり強いのがいるじゃないか!!牛頭丸のアホッ!!アホッ!!」

次々と現れる式神に加え、ヒノエやカゲロウまで戦いに加わり、追い詰められた馬頭丸は悔しげに歯を噛み締める。

「早く牛鬼様に勝利の報告をしたいのにィ……牛頭丸よりも早く……また……馬鹿にされる!!なんだよクソッ!!」
「……何だいあいつ。一人でごちゃごちゃと煩い。」
「行け!!うしおに軍団!!てめーらの怪力見せつけろーー!!」

一人で焦ったり悔しがったり、世話しなく騒ぐ馬頭丸にヒノエは呆れた視線を向ける。
すると馬頭丸は焦ったのか、残った二体の鬼達を一斉にこちらにけしかけてきた。
その時だった…

ドガァァァン!!
「ふえ?ゲブォォォ!!」

突然空から三人の鴉天狗が現れ、二人が大鬼を一撃で仕留め、もう一人が隙のできた馬頭丸に錫杖で顔面を叩きつけた。
渾身の一撃にぶっ飛ぶ鬼と馬頭丸。
突然の空からの加入に、その場にいた者達は唖然とした。

「……若は……居ないのか。」
「……え、何!?」
「……あいつ等は……奴良組の鴉天狗か……」

黒羽丸達はリクオがこの場にいない事に焦り、ゆら達は状況が掴めずに焦り、ヒノエとカゲロウは彼等が味方だといち早く理解して構えを解くのだった。

「ブハァ!!何しやがるーー!!てめぇら……何者だぁーー!!」
「小僧。自分が誰に口を聞いているか解らんのか。我等は鴉天狗一族……知らぬ訳ではあるまい。」
「か……鴉天狗!?本家の……お目付け役……何で、ここに……」

本家の情報網を管理する鴉天狗がこの山に居ることに、馬頭丸は顔色を変える。
そして自分が陰陽師のゆらや、ヒノエ、カゲロウ、そして三人の鴉天狗と、敵に囲まれている状況を漸く理解した馬頭丸は、先程までの威勢は何処へやら……
小さく縮こまってしまった。

「女湯を襲う妖怪か……汚らわしい……」
「……」
「あ……いや……」
「小僧。お前に訊きたい事がある。」

もはや逃げる事すら出来ないと理解した馬頭丸に、黙秘と言う選択肢はなかった。

*****

「うおお〜い、やめろ……やめてくれ〜おろして〜!!」
「さあ吐け!若は何処にいる!!」
「牛鬼様……いや、裏切り者の牛鬼は何を企んでいるんだ!?」

悪巧みがバレた馬頭丸は紐で逆さ吊りにされ、三人の鴉天狗。黒羽丸とトサカ丸、そしてささ美に尋問されていた。

「やはり旧鼠はお前等がやったことか!?言え!!」
「ひいー!!許してぇーー!!言えないよぉーー!!」
「答えなければこのまま一生逆さ吊りだ!!」
「そんなぁ〜!!」

逆さ吊りの刑にされても、中々口を割らない馬頭丸に黒羽丸達の苛立ちが募る。

「……埒が明かないな……黒羽丸、トサカ丸。ここは私に任せて二人は若を探しに行け!きっとこの山の何処かに居る筈だ!!」
「……そうだな。ささ美、ここは任せたぞ。」
「ああ」

三羽鴉の長女ささ美は馬頭丸を預かると、黒羽丸とトサカ丸はリクオを探しに山の探索に向かうのだった。

「……さて、知っていることを全て吐いてもらおうか……」
「ひい!!」

どこからか取り出した鞭を馬頭丸に見せつけて脅してくるささ美に、馬頭丸は悲鳴を上げた。
恐ろしいささ美の拷問に馬頭丸が音を上げて口を割るまで、山には鞭のしなる音と、馬頭丸の悲鳴が響いたという。

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