第63話「初恋の女の子」
ヒノエの薬で幼くなってしまった彩乃。
リクオ達は突然起きてしまった事態に頭がついていかず、呆然と幼くなった彩乃を見下ろしていた。
そんな中、一番に現実に戻ってきたのはリクオだった。
「……な……なな、何で先輩に変な薬飲ませたんだよ!」
「ぎゃあ!男は寄るんじゃないよ!!」
「そんな事より早く先輩を元に戻してよ!!」
「そ……そーよ!彩乃さんがこのまま子供のままだったどーするのよ!!」
現実に戻ってきたリクオと氷麗は慌てて元凶であるヒノエに元に戻すように迫った。
男嫌いのヒノエは、リクオが近づいてきたことで嫌悪感丸出しで後ずさった。
「心配しなくてもあれは試作品の若返り薬だから、三日もあれば元に戻るよ。」
「三日も!?」
「そんなに待てないわよ!今すぐ元に戻しなさい!」
「そりゃあ無理だ……あいにく元に戻る薬は用意してないんでね。」
「そ……そんな!」
「それよりも、いいのかい?あれ。」
「「……え?」」
ヒノエが指差した方向には、ニャンコ先生を抱き締めてこちらを怯えたように見つめている幼い彩乃がいた。
ヒノエばかりに気を取られていて、彩乃の事は二の次にしてしまっていた。
その事に漸く気付いたリクオと氷麗は慌てて彩乃に駆け寄った。
「……っ」
「夏目先輩、体は大丈夫ですか!?どこか痛かったり、変な感じとかしませんか!?」
「安心してくださいね、彩乃さん!必ず元に戻しますから!!」
「……お兄ちゃん達、誰?」
「「……え……」」
リクオ達は彩乃の口から発せられた言葉に固まった。
まるでリクオ達を知らないかの様に振る舞う彩乃に、リクオ達は戸惑った。
「……まさか……心まで子供に……!?」
「ああ、いい忘れてたけど、その薬は10歳若返るんだ。だから今の彩乃は私等のことはわからないよ。」
「そんな他人事みたいな……」
リクオはどうしたらいいのかわからずに焦ると、見かねたニャンコ先生が口を開いた。
「落ち着け阿呆。」
「うわぁ!喋った!!」
「ふぎゃ!!」
ニャンコ先生が喋った瞬間、彩乃はびっくりしてニャンコ先生を放り投げてしまった。
そのせいでニャンコ先生は地面に顔面を打ち付けてしまう。
「〜〜っっ!痛いではないかこの馬鹿たれが!!」
「きゃーー!!この猫お化けだーー!!」
「夏目先輩!!」
どうやら彩乃はニャンコ先生を普通の猫だと思っていたようで、喋る変な猫だとわかると、怖がってリクオの後ろに隠れてしまった。
「……お化け怖いお化け怖い……」
「……(あれ?この子何処かで……)」
リクオにしがみついてぷるぷると体を震わせながらニャンコ先生に本気で怯える彩乃を見て、リクオは何故かあの女の子が脳裏を過った。
(……そういえば、あの子もこんな茶髪の髪で、妖怪が嫌いだった……まさか……)
リクオはある考えが過り、思わず小さな彩乃を凝視してしまう。
「でも……似てる……まさか、夏目先輩があの時の……女の子!?」
「……ひゃ!」
思わず大きな声を出してしまい、彩乃はびっくりしてリクオから離れた。
「……お兄ちゃん?」
「……っ!」
彩乃が初恋の女の子だと理解したリクオは、急に恥ずかしくなった。
顔に熱が集まり、リクオは誰が見てもわかる程赤面した。
「わわ!リクオ様どうしたんですか!?顔真っ赤ですよ!」
「や、何でもない!!」
「でも!」
「若ー!何か騒がしいですがどうかしたんですか〜?」
「わあああ!!何かちっちゃいのがいっぱい出できたぁ!!」
「せ、先輩落ち着いて!!」
騒ぎに気付いた納豆小僧達がリクオの元にわらわらと集まってしまい、彩乃は見慣れぬお化け達に完全にパニックになった。
「やああ!!怖い!!」
「だ、大丈夫だよ!こいつ等は怖くないから!」
「わあああん!!」
「やかましい!おいヒノエ!お前が原因なんだから泣き止ませろ!」
「やだね。私はガキは嫌いなんだ。……まあ、彩乃は別だけど……」
「いやーー!!」
「ちょっとヒノエ!余計に泣くからこっち来ないで!」
「……」
ヒノエがうっとりとした顔で彩乃に近付こうとすると、身の危険を感じたのか彩乃はよりいっそう泣き出してしまう。
「ど……どうしよう!」
「わあああん!」
「……あらあら、しょうがないわねぇ。」
「お母さん!?」
リクオ達がどうしたらいいのわからずにオロオロとしていると、今まで事の成り行きを見守っていた若菜が動いた。
彩乃を抱っこすると、赤ちゃんをあやすように優しく背中を叩いてあやし始めたのだ。
「……ぅ……ひっく……」
「大丈夫よ。なーんにも怖くないわ。」
「……うう……」
「……凄いです。さすがは若菜様……」
若菜の優しい声で安心したのか、彩乃はグスグスと鼻を啜り、まだ涙目ではあるが少しだけ落ち着いたようだ。
「もう大丈夫だからね〜。」
「……ぐすっ」
「……良かった。ありがとうお母さん。」
「……彩乃ちゃん、人型以外の妖怪が怖いみたいね。」
「ええ!?そうなんですか!?」
ずっと様子を見ていた若菜から言われた言葉にショックを受ける氷麗。
あんなに妖怪に優しかった彩乃が、まさか妖怪嫌いになるなんて思わなくて、氷麗も納豆小僧達集まった妖怪達もショックを受けた。
「……やっぱり、何とかして元に戻さなきゃ!」
「そうですね。三日もこのままでは困りますし……」
「ヒノエ、どうにか出来ないの?」
「……まさか彩乃がこんな事になるとは……悪いね、今すぐに戻せる薬を作るのは急いでも20日は掛かる。」
「そんな……そうだ!鴆君ならどうにか出来るかも!」
「成る程!ではすぐにお呼びします!」
「お願い氷麗!」
氷麗は急いで鴆に連絡を取るために部屋を後にした。
若菜に抱っこされたまま泣き疲れてスヤスヤと眠りについてしまった彩乃を見て、リクオは何とも言えない気持ちになった。