第73話「黒ニャンコの正体」

「――捕まえた!!」
「でかしたぞ彩乃!」

黒ニャンコを追いかけていた彩乃達、会場からだいぶ追いかけっこをした所で漸く捕まえる事に成功したのだった。
黒ニャンコを捕まえると、先生は青年の姿から元の招き猫の姿に戻る。
当の黒猫はというと、先程まで逃げ回っていたのに、一度彩乃に捕まると、あっさりと暴れるのを止めて大人しくなった。
その様子に彩乃はある疑問が生まれる。

「……この黒ニャンコ、わざとじゃないかな?」
「わざと?」
「うまく言えないけど、友人帳を奪うことで、ここに誘導されたような……」
「誘導?何のためだ。紅峰、探れ」
「やってみます。」

そう呟くと、紅峰は黒猫の頭に手をのせた。
集中して黒猫の妖気を探り始める紅峰を彩乃達は固唾を呑んで見守った。

「……おそらく力のある妖が招き猫(依代)に封じられている姿だと思うのですが……封印の影響が強くて知能低下を起こしていて――……ん?この気配、憶えが……」

ぶつぶつと呟きながら探りを続ける紅峰。
しかし次の瞬間には何かに気付いたように顔色を変えた。

「ぎゃっ!この妖気もしや主様!?」
「ええっ!?」
「お、おいたわしい……おのれ人間共め!!」
(……この地方では招き猫に妖を封じるのが流行ってたのかな…?)

人間に対して怒り狂う紅峰を傍観しながら、彩乃は的外れなことを考えていた。

「……もしかして、夕方に妖に襲われた時に私が切ってしまった縄が結界で、動けるようになった主様はこの森に帰って来たのかな?」
「それなら何故友人帳を奪う必要がある?」
「それはわからないけど……とにかく皆にこの事を知らせよう!」
「猫の姿では皆主様とは信じないでしょう。私のように感じ取れる高等な妖はそうおりませんし」
「そんな……」
「――おや、そういえば主様は確かレイコに名を奪われたことがありました。」
「そうなの!?だったら、名を返せば……!」
「可能性はあるな。名を奪われて封印を破るのに力が足りんのかもしれん。名を返せば元に戻るだろう。」

先生の話を聞いて、希望の見えた彩乃は黒猫に視線を合わせるように膝まずいた。

「主様、名を返します。だから、どうか皆を止めるのに力を貸して下さい!!」
「私にできることなら何でもします。だから……「そこにいるのは夏目か?」
「!?」

不意に頭上から自分を呼ぶ声がして、彩乃は咄嗟に上を見上げた。
するとバサリと大きな羽音を立てて、3つの影が彩乃の目の前に降り立った。

「あなた達は……奴良組の鴉天狗達……」
「久しいな夏目。捩眼山の時以来か?」

彩乃の前に現れた3つの影。
それは奴良組の鴉天狗の子供達。
三羽鴉こと、黒羽丸、トサカ丸、ささ美の三人の鴉天狗達だった。

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