第76話「夏目は頑固」

「まったく!どうしてそんな無茶したんですか!!」

学校の屋上にて、氷麗の怒鳴り声が辺りに響き渡る。
それに彩乃は困ったように眉尻を下げて苦笑した。

「お、落ち着いて氷麗ちゃん。無事だったんだしね?ほら、早くお昼食べないと休み時間終わっちゃうよ。」
「誤魔化さないで下さい!鴉天狗達から聞いたんですからね!彩乃さんが『また』一人で妖怪相手に無茶な行動をしたって!!もうっ!どうしていつもそうご自分を大事にしないんですかぁーー!!」
「え、ええ〜」
「僕も氷麗の言い分に賛成。彩乃ちゃんはもう少し妖怪に対して危機感を持ってよ。今回僕等がいない時に結構危ない目にあったんだって、黒羽丸達から報告受けた時は本当に心配したんだから。」
「うっ……ごめん」

彩乃は真剣に心配してくれたリクオと氷麗に、申し訳なさそうに謝った。
そもそも、どうしてこうなったのかと言うと、黒ニャンコ事件から翌日、黒羽丸達がリクオに昨晩の騒動の報告をしたのだろう。
翌日学校に行くと、お昼に誘われた彩乃は、リクオと氷麗に昨晩、妖怪相手に無茶をしたことがバレて二人からお説教を受ける事となったのだった。

「もう!彩乃さんは陰陽師でもなければ祓い屋でもない普通の人間なんですよ!?もう少しご自分の体を大切にして下さい!じゃないと私、泣きますよ!?」
「えっ!?そ、それは困る……」
「だったら、今度から妖怪関係のトラブルに巻き込まれたら、必ず僕等に相談して。」
「え……でも……」
「約束、出来るよね?」
「……ぜ……絶対とは約束できないもの!!」
「彩乃ちゃん?」
「……」
「……はあ。」

中々首を縦に振らない頑固な彩乃に、リクオは呆れたようにため息をついた。

「……わかった。でも、何かあったら力になるってことだけは忘れないでね。」
「……うん、ありがとう。」
「……(この人は本当に……)」

彩乃と接するうちに、リクオは段々彩乃の行動というか、性格がわかってきた気がする。
どうにも彼女は人を頼るというか、他人に助けを求めるということが苦手なようだ。
今まで頼れる者がいなかったのだろうか。
彼女は他人のことには一生懸命になるのに、自分自身が困った状況になってもあまり人を頼らない。
それは妖怪という人間ではどうにもできない異形の存在でも同じらしい。
頑なに自分達を頼ろうとしない彩乃に、リクオは困ったようにため息をつくしかなかった。

*****

「ただいま帰りました。」
(――あれ?)

夕方になって家に帰宅した彩乃は、玄関に見慣れぬ男性の靴を見つけて足を止めた。

「……お客さんでも来てるのかな?」
「あら、彩乃ちゃんお帰りなさい。お客さんが来てるわよ!」
「私にですか?」

自分を訪ねてくるなんて誰だろう。
透ちゃんだろうか?
彩乃は不思議に思いながらも居間の方へと向かう。

「やあ。久しぶりだね彩乃。」
「なっ……名取さん!?」

居間に行ってみると、そこにはこの場に居るのが可笑しいくらいきらめいた異質なオーラを放つ名取が居たのだった。

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