09
リッカの家に着いた時には、すでに辺りは暗闇に包まれていた。
今日は星が綺麗だ。
こうして人間界で暮らす中、いつしかリディアは夜の静けさを好むようになった。
昼は視覚で感じられる身近なものに意識が集中する。
夜は、目ではなく、もっと別の感覚で、昼間とは違うものに意識が集中する。
昼はミクロで夜はマクロな世界。
「あ、あなたは……」
ドアの前に、遺跡で出会った幽霊がいた。
『遺跡の時もでしたが、もしかして貴女、私が見えるのですか?』
「はい」
『そうなんですかー、私が見えるなんて、貴女一体何者ですか』
「それがですね、あまり大きな声では言えないのですが、実は天s───」
「ちょっと待ったァァアアア!!!!!!」
小高い女の声がしたと思ったら、額に石か何かが飛んできた。
「痛い……」
誰だ石を投げたやつは。
「痛ッ……。ちょっとあんたよけなさいヨ!!」
石が投げられた反射で閉じた目を開けると、そこにはギャルのような妖精のようなギャルがいた。
「……誰?」
リディアは思ったとおりのことを呟いた。
妖精さんは興味を持たれたことが嬉しかったのか、ご機嫌だ。
「え、そこを聞いちゃいマス?」
「是非とも」
妖精はピースサインをして、自己紹介を始めた。
「アタシは謎の乙女、サンディよ!!」
フリフリの洋服に、日焼けした肌。謎の乙女というより、謎のギャルである。
「アタシもねー、コイツのこと気になってたのヨ。もしかしなくても、方舟見えてたっポイし?」
「私、天使なの」
「やっぱり?でもサ、羽も輪もないジャン?アタシ的にはそこがひっかかるのよネー」
サンディの言うことは全く持って図星である。今のリディアは、見た目は人間そのものなのだ。天使だと言われても、誰も信じやしない。
「あ、でもちょうどここに幽霊いるし、この人成仏させたら天使だって認めるよ!!」
「はぁ……」
幽霊は全く話についていけていないようだ。仕方ない。
「ねぇ、あんた何か未練とかないワケ?」
『未練ですか?そうですね……』
「ニード、いる?」
「なんだこんな夜遅くに」
「ごめん、あのね、シャベル借りたいの」
リディアがお願いすると、ニードはしぶしぶシャベルを貸してくれた。
「親父にはナイショだからな!」
「うん、ありがとう!気が向いたらリッカに話してあげる」
「り、リッカは関係ないだろ!!」
ニードをからかうのは、楽しい。こんなこと言ったら、師匠に怒られてしまうだろうが。
リディアは幽霊───リッカの父親、リベルトが指示した場所へ行き、地面を掘った。
ほどなくして、シャベルに何か固い物が当たった感触がした。
それは、トロフィーだった。