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「リッカ、いる?」
「リディア?」

リディアはリッカに了解を得て、彼女の部屋にあがった。
手にはトロフィーを持って。

リッカは不思議そうに、リディアが持つトロフィーを見つめていた。


「それは……?」
「リッカが持つべきものだよ。土がついていて、ちょっと汚いけど……」
リディアはリッカにトロフィーを渡した。
何年も土に埋まっていてもなお、それは輝きを失っていなかった。

リッカはトロフィーに彫られているメッセージを読んだ。
「伝説の宿王、リベルトへ───。あの話、本当だったんだ……」

リッカは下を向いた。
きっと、混乱しているのだろう。

「それなら、なんで父さんはウォルロに来たの?私、分からないよ……」
それはリディアにも分からない。だって、どうして自分が今、ウォルロにいるのかすら分からないのだ。
否、リベルトのことは、彼に直接聞けばよい。何かしら理由があるのだろうから。
けれど、リディアを通してリベルトの意志を伝えても、リッカは納得できるのだろうか?

「それはワシが話そう」
「おじいちゃん……」
リッカの祖父が、二階に上がってきたのだった。


「リベルトがウォルロ村に来たのは、リッカ。お前のためじゃ」
「私の?」
「お前さんが小さかった頃、病気がちだったの覚えておるか?」
「うん。でも、ウォルロ村に来てからすごくよくなったよ。自分が病気がちだったことを忘れるくらい」

その事実は、リディアにも衝撃的だった。
リディアは、リッカが病弱だなんて、夢にも思わなかったからだ。

「お前さんの母親も病弱での、お前さんが生まれてすぐに亡くなったんじゃ。だから、リベルトはリッカが元気になるように、ウォルロ水のあるこの村に来たんじゃよ」
「そう、なんだ……」
リッカはしばらく何も言わなかったが、やがて口を開いた。

「父さんは私のために、セントシュタインを捨てて……。時々、父さんは寂しそうに遠くを見つめていたけど、セントシュタインの宿屋を忘れられなかったんだ。私が、父さんの夢を……」
リッカは最後まで言わなかった。
唇を噛んで、やりきれない思いを押し殺しているのだろう。

「そう思わせたくなくて、黙ったいたんじゃろうな。お前さんも、もう、色々分かる年じゃ、知ってもよいじゃろ」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、リッカは決心したように
「私、セントシュタインに行くよ」
と言った。

「何ができるか分からないけど、やってみる!!」
もう、リッカはくよくよしていなかった。
いつもの、頑張り屋さんのリッカだった。

『リッカも、こんなに大きくなって……。いつまでも成仏しないで見守っているのはお節介かな。もう、心残りはありません……』
いつの間にか、リベルトが立っていた。
リベルトの周りには、淡い光が発している。

徐々にその体は薄れ、そして、消えた。
成仏したのだ。



数十分後。リディアとサンディは、リベルトの去った場所に立っていた。
「ねぇ、リディア」
サンディが床を指す。
「何?」
彼女の仕草が意味することを、理解できずに尋ねると、サンディは呆れたように言った。

「星のオーラ。落ちているんですケド。早く回収しなよ」
「え……」


これは困った。


「どうしよう、見えない……」

「エ……。ちょっと待って、ようやく"こいつは天使かも"って思ったのに。やっぱ偽物でしょ、アンタ」
「ちがうの、私、天使なのー!!」

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Honey au Lait