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翌日、リッカはルイーダと共にセントシュタインへ旅立った。
リッカが経営していた宿屋は、と言うと、意外なことに、ニードが引き継ぐことになったのだ。

「これでニードも脱ニートだね。もったいないなー、せっかくのエリートニートが」
「うるせぇ。てか、エリートニートってなんだ。ニートとしてのエリートなのか。エリートな人間のニートなのか」
「え、ニートとしてのエリートだよ?」

リディアはいたって真面目に言った。

「そういうリディアだって、結局、芸一つやってないじゃないか」
ニードに指摘されて、リディアはハッとした。
そうだ、芸。
一度くらい、やっておかないと。

今なら、リッカの送別に来た村人がいる。
せっかくなので、彼らにも見てもらおう。

「うん、じゃあ故郷で流行ってるおはなしを一つ」
「おっ、ついにきたか!」
「ニード、ちょっとここ持って」
リディアは、ニードにリディアの服の裾を持ってもらうよう、指示した。


「おはなし!」


リディアが叫ぶと、ニードは驚いて手を離した。
最初は、意味が分からなかったようだが、しばらくして拍手が起こった。

「すごい!なかなか考えた芸じゃないか」

村人が言う。
そうは言っても、他人の持ち芸であり、そんなに嬉しくない。


───今度は。
自分で考えて芸を披露したい。

まぁ、すぐに天使界に帰るから、もう二度と会って話をすることはないが。


「リディアも、もう旅立つんだろ?」
「うん、そろそろ行かなきゃ」
「新作の芸ができたら、またウォルロ村に来てくれよ!いや、芸はいいから俺の宿屋に泊まってくれ!」
「そうだね、十割引きにしてくれるなら」
リディアはさらっと言った。
ニードは、リディアの言葉をすぐには把握せず、いいぜ、と答えたが、十割引きの意味を理解したとたんに怒った。

「おい、それ、タダじゃねーか!!」








ウォルロ村とセントシュタインを繋ぐ、峠道。
そこに、普通の人には決して見えない方舟があった。

いざ、方舟に乗ろうとした時、リディアらのそばを幽霊が通りすぎた。
全身を覆うフードを着た、まだ若い女性だ。

「……なんだろ、あの人」

最近はよく幽霊に会うなー、と、思いながらも(幽霊になることはイレギュラーで、多くの人間は、死ねばそのまま天に還るのだ)、サンディに早く入れと促され、リディアは方舟に足を踏み入れた。

一瞬だけ、ガタンと動いたが、何もなかった。

「おかしいなー、アタシ的には天使を乗せたら動くと思ったんだけど……」
「無理っぽい?」
「こりゃ無理だわ。てか、神様何してるのサ……って!!」
一瞬、沈黙があったが、サンディは大きな声で叫んだ。

「かーみーさーま!!そうよ、神様!!なんで助けてくれないの?もしかして、アタシ達、見つけてもらってナイんじゃ……」
「え、なんで」
「うーん、星のオーラが足りないトカ?そうだ、セントシュタインに行って人助けしたら、星のオーラがたまって神様が見つけてくれるヨ!!」
だから、とサンディは続けた。

「アタシ達もセントシュタインに行くのヨ!!」

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Honey au Lait