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リディアには見えなかったが、暴行された女性を助けた時、星のオーラが発生したらしい。星のオーラを見ることができないリディアの代わりに、サンディがそれを回収した。
「やったじゃん!リディア。この調子でもっともっと星のオーラを集めるのヨ」
「ねぇサンディ。さっきの星のオーラっていくつだった?」
「ええっと、1つヨ」
今のリディアに星のオーラが見えないように、人間にサンディは見えない。そのため、人目のつかない場所で2人は『作戦会議』を行なっていた。

「1つ、かぁ」
「なに?1つじゃ不満ナノ?」
明るいトーンで話すサンディとは対照的に、リディアはどこか浮かばれない表情だ。
「ほら、セントシュタインって広いでしょう?だから、神様に見つけてもらうにしても、あんまりにも少なかったらとてもじゃないけど、目印にならないんじゃないかなって」
リディアとしてはもっと手っ取り早くオーラを回収したい。もちろん、この国の民全員に手を差し伸べたいけど、それでは効率が悪すぎる。天使界に帰れなければ意味がない。

もっと効率の良いオーラの回収方法はないだろうか。解決すれば国中の人が感謝するくらいの、大きな問題が。

「まー、それはオイオイ考えるとして、リッカの宿屋にでもいこーよ。ぶっちゃけ、アタシ的には宿屋がどうなってるか気になるしネ」
どちらにしろ、もうすぐ夕方になる。今日はずっと歩いたからリディアも疲れを感じていた。羽根を失って時間も経ったので慣れてはきたものの、飛ぶよりも足で歩く方が疲労する。

リッカの宿屋がどこにあるのかは彼女がウォルロ村を出発する際にルイーダが教えてくれた。その時の案内を頼りに、リディアはリッカの宿屋を目指した。





「あ、さっそく来てくれたんだね」
宿屋に入ると、カウンター越しにリッカが手を振ってくれた。
「うん、今日はここで泊まっていい?」
「勿論!大歓迎だよ!」
部屋の手続きを済ませ、リディアは荷物を部屋に置いてきた。

「リッカ、ちょうしはどう?」
カウンターに戻り、リッカとお喋りに花を咲かせる。もちろん、仕事の邪魔にならないように、考慮して。
「うん、勝手が違うから慣れるの大変だけど、なんとかやっていけそう」
「そっか、良かった」

セントシュタインには冒険者が立ち寄ることが多いらしく、それをビジネスチャンスとみたルイーダが設立したらしい酒場もこの宿屋に併設されており、酒場には大きな武器を持った、いかにもな冒険者たちが酒を片手に盛り上がっている。冒険者たちが宿屋のリピーターになってくれれば、宿屋の経営も安定するのに、とルイーダがため息をついて言っていたので、やはりこの宿屋は相当危ない状況に立たされているのだろう。

酒場には当然酒がある。リディアもお酒が飲みたくなり、ルイーダに生ビールを注文した。

疲れた時に飲む生ビールは格別である。


「最近は、ベクセリアを繋いでいる関所が封鎖されているから、お客さんが減っているんだけどね……」
大地震の影響でセントシュタインとウォルロを繋ぐ峠が通行止めになり、ウォルロの宿屋を利用する客が減った矢先に、また客が減ってしまうようなことがあるというのは、流石に可哀想だ。
土砂は人の手で取り除くことができるが、関所の封鎖は何かしらの事情があるのだろう。もしかして、これは星のオーラを集めるチャンスなのではないだろうか。セントシュタインには冒険者が多い。きっと関所を通って別の街へ行きたいと考えている者も多いはずだ。

「どうして封鎖しちゃったのかな」
「それが、謎の黒騎士が現れて騒ぎになってるからみたいなの」
黒騎士の話はリディアも小耳に挟んだ。
武器屋を出た時に、すれ違った女性達の会話に出てきた。なんでも、武器屋さんの愛馬が黒騎士に奪われたのだとか。

「お城のほうで、黒騎士を退治してくれる旅人を募集しているんだって。セントシュタイン城には兵士もたくさんいるんだし、わざわざ旅人を募らなくてもいいと思うんだけど……」

セントシュタインにある兵士育成学校は、世界一のレベルらしい。そんな学校を卒業したエリート兵士が沢山いるのだから、リッカの言う通り、素性の知れない旅人を募らなくても、自国の兵士を送り込めばいいのではないか。
「でも、きっと王様にも何かお考えがあるんだわ。だから、私は黒騎士退治で疲れた旅人さんに、精一杯のおもてなしをするよ!」
ガッツポーズを取り、張り切るリッカ。

彼女も立派な商人であった。





翌朝、リディアは国王に黒騎士退治を申し出るため、セントシュタイン城を訪れた。

どう見てもまだ10代の少女であるリディアに、門番の兵士は不安そうな表情をしていたが、黒騎士の件に関する貼り紙にはしっかりと『素性は問わない』と書いてあったのだ。リディアに黒騎士討伐を任せるかどうかは彼らが決めることではない。リディアは極めて論理的に(そしてちょっとだけ実力行使して)門番の審査を通過してみせた。



「わぁ、凄い……!お城ってこんなに広いのね!」
天上のシャンデリア。床に敷かれたカーペット。飾られた肖像画。どれも、ウォルロ村ではお目にかかれないものだ。

きっと、置かれている花瓶も、割ったらとんでもない額を請求されるくらい高価なものだろう。
リディアは花瓶の近くまで寄って様々な角度から眺めた。

「リーディーア!!」
「わっ?!」

そんなリディアに声をかけたのはサンディだ。
急に声をあげてしまったため、驚いた城の使用人たちはリディアを不思議そうに見る。リディアが「虫が背中に飛んで来たものでして」と最もらしい言い訳をすれば納得して各々のやるべきことに戻っていった。

「もー!ピクニックかっつーの!さっさと王サマのとこ行って、星のオーラを回収するわよ!」
サンディに叱られたリディアは「ちょっとくらいいいじゃない」と不満をこぼしたが、サンディの言うことは最もであるため、王の場所を目指すことにした。

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Honey au Lait