01

人との約束を、約束をした本人であるのに盛大に遅刻をかましてきた黒騎士は、なんとすでに現代を生きる人ではなかった。

「ちょ……、あんた一体なんなのよ!!その顔でお城に行ったらフィオーネ姫もびっくりしちゃうじゃない!!」
「何?!フィオーネ姫?」
アデリーヌがフィオーネ姫の名前を出せば、自分で狙っているくせに黒騎士がうろたえた。
「何てことだ、あの姫君はメリア姫では無かったのか……」
「メリア姫ぇ?誰だそりゃ」
「セントシュタインの姫はフィオーネっていう名前よ」
黒騎士はどうやら人違いをしていたようだった。

「言われて見れば……彼女はルディアノ王家に代々伝わるあの首飾りをしていなかった」
「ルディアノ?あなた、ルディアノのことを知っているの……?」
黒騎士の独り言に、今度はフリアイが食いついた。
(ルディアノ……?)
115年生きているアランであるが、ルディアノという名前は聞いたことがない。どこかの国だろうか。

「なんだ、フリアイちゃんはルディアノってとこのこと、知ってんの?」
アランですら知らないルディアノのことをフリアイは知っているようだ。そう言えば、フリアイは黒騎士退治が終わってからアラン達に手伝って欲しいことがある、と言っていた。
フリアイには何かある。アランは努めて軽い口調でフリアイに聞いてみた。

「知ってるも何も」
フリアイも別に隠すつもりはないようで。


「私、ルディアノ王家の血縁者だから」
フリアイの爆弾発言に一同は盛大に驚いた。それはもう、いつぞやのルイーダのごとく。


「王家の血縁者だと……。だったらメリア姫のことも知っているのか……?」
黒騎士は動揺を抑えられないみたいだ。
「さあ、私もメリア姫のことは知らないわ。ごめんなさいね」
フリアイの言葉に黒騎士は落胆し、しばらくの間沈黙が辺りをつつんだ。

「して、お前さんは何という名前じゃ」
ジョセフの言葉に、そう言えば黒騎士の正式名を知らないことに気付く。
「私の名はレオコーン。……そしてメリア姫というのは、我が祖国ルディアノ王国の姫。私とメリア姫は永遠の愛を誓い、祖国での婚礼を控えていた仲だった……」
レオコーンはさらに話を続ける。
「私は深い眠りについていた。そして、あの大地震と共に何かから解き放たれるように、この地で目覚めた……。記憶を失っていた私は、しかしあの異国の姫を見かけ、メリア姫のことを思い出したのだ」

『あの大地震』。その言葉がアランの胸を締め付ける。
崩壊する天使界。耳をふさぎたくなるような同胞たちの悲鳴。

そして。


「絶対に助けてやるからな!!」


掴めなかった、二人の手。

(ナイン……)

アランは自分の拳を握りしめた。


「……いずれにせよ、私は自らの過ちを正すために今一度あの城へ行かねばなるまいな……」
アランが物思いにふけているところでレオコーンは話を進めていたらしい。
「ねえ、アラン。止めたほうがいいって。絶対にややこしくなるだけだって」
サンディが姿を現す。アランはサンディの言葉をそっくりそのままレオコーンに伝えた。
レオコーンはサンディの姿が見えるが、他の人間にサンディの姿は見えない。

「ややこしくなるか……それもそうだな。では、そなたらの方から城の者へ伝えておいてくれないか? もう城には近付かないと……」
黒騎士もサンディの意見に納得したようだ。

「ルディアノ城ではきっと本物のメリア姫が私の帰りを待っているはず……。私はルディアノを探すとしよう」
そう言うや否やレオコーンはその場を去って行った。


「あいつ、ルディアノの場所知ってるのか……?」
アランの心配事が杞憂にならなかったことが後日判明する。

Honey au Lait