03

「ここは……」
「あ、フリアイ起きても大丈夫?急に倒れたからびっくりした」
アデリーヌがフリアイの背中を優しくなでた。自分よりもはるかに年下の少女にされているというのに、なぜか心地いい。
「体調を崩した時、よくママがこうしてくれたんだ!こうされると落ち着くの」
「そうね……。でも、私は母親の顔を知らないの」
「え……」
丁度その時、アランとジョセフが部屋に入って来た。
「おい、もう起きて大丈夫なのか?」
「ええ。ついでにあなたたちに私のことを話しておくわ。どうせあと二週間の命だし」
「あと二週間……。お前さん、何かの病気にかかっておるのか?」
ジョセフの問いにフリアイは首を横に振った。
彼女がルディアノ王家の血筋をひいていることも衝撃だったが、その事実よりも想像を絶することに三人は驚きを隠せない。
「病気っていうか、呪いよ。アデリーヌには話したのだけど、私、母親の顔を知らないの。物心がつく前に呪いの期限がきて、母親は呪い殺されてしまったから」
フリアイは淡々と語る。
「私がルディアノ王家の血縁者だって話はさっきしたでしょう?私の家系のことを話す前に、まずはルディアノの話をしましょう。ルディアノ王国は魔物によって滅ぼされた国よ。イシュダルという悪魔に狙われてしまったの。それで、レオコーンはルディアノを守るために自ら率先してイシュダルのアジトへ向かったのだけど、レオコーンはイシュダルに破れてしまって。当時レオコーンと婚約を結んでいたメリア姫が健気に彼の帰りを待つものだから、王家の血縁者でありながら王位継承権を持っていなかった私のご先祖様は、せめてレオコーンの仇を討とうとイシュダルに戦いを挑んだのよ。そしてイシュダルは私のご先祖様に20歳になると死ぬ呪いをかけた。それは遺伝する呪いだから、私も何もしなければ二週間後の20歳の誕生日に呪い殺されるっていうわけ」
「20歳?!」
元々人間よりも天使は長寿な生き物である。それにしてもたった20年しか生きられないなんてなんて儚い人生なのだろうか。人生まだまだこれからという年齢だろうに。
アランが生まれて20年経った時、何をしていただろう。まだイザヤールの弟子にすらなっていなかったはずだ。
もうすぐフリアイにかけられた呪いの期限が切れる。フリアイがさっき倒れたのも呪いの発作なのだろうか。

「まさか黒薔薇の騎士の力も借りれるなんてね。私は呪いを解くわ……。そして長生きするのよ」
そう言うや否や、フリアイは立ち上がって壁に立てかけた槍を取った。
「おい!待てよフリアイ!」
アランの制止も聞かずにフリアイはソナお婆ちゃんの家を出る。
アラン達は慌ててフリアイを追いかけた。

「ジョセフ、あのお嬢さんはもう大丈夫なのかい?わたしゃ心配だよ」
「ソナ、わしの連れが世話になったのう。おかげさまでもうピンピンじゃよ」
「そうかい。やっぱり若いっていいのう。そうじゃ、この間……」


ただ一人、ソナお婆ちゃんの長話に捕まってしまったジョセフを除いて。

Honey au Lait