お前だけに言われたくないオブザイヤー

 セントシュタインの商店街に最近オープンした13(サーティーン)。13という店名ながらに実に31種類ものアイスを売っている、ハゲーンダッツと肩を並べる全国チェーンのアイス屋だ。私、リディアはアルマ君を誘って今日、ようやくこの13に突撃することにした。本当はログかアリスとでも行こうかと思ったのだけど、ログは相当やばい虫歯が出来ているらしく、アイスに限らず甘いものはドクターストップがかかっているし、アリスはアリスで既にアルテミス君と一緒に行く約束を取り付けていたようだったのでアルマ君を誘ったところ、あっさりOKをもらえた。ありがとうアルマ君!

 「31種類もアイスがあるとさ」

 15時台はとにかくお客さんが多い。食べ歩きでもいいけど、どうせなら店内で座って食べたいからあまりお客さんで混まない時間帯を選んで私とアルマ君は13を目指して商店街のアーケイドを歩いて行く。

 「何頼むか悩んじゃうよね。アルマ君はもう決めた?」
 「僕、何頼むか悩みすぎて昨日は五時間しか寝られなかったよ」
 「五時間って割りと寝てるんじゃ……」

 睡眠時間カーストの中では五時間の睡眠は平民階級。不眠は四時間を切ってからが本番じゃない。


 「あ、ここが13だね」

 「良かった、見たところあまりお客さんいないみたい」
 窓から店内を見てみると席もいくつか開いているみたいだし、レジにもあまり人が並んでいない。そりゃ昼を食べたばかりの13時にアイスを食べようと思う人などいないだろう。この時間にして正解だった。

 「げっ、あれアラン先輩とヴァンさんじゃない」

 店に入ると見知った顔ぶれが。ていうか知り合いばかりじゃないの。レジで注文している人たちの後ろに並んでいるのはフィルとティエラだし、その後ろにはアリスとアル君の姿が。アラン先輩とヴァンさんはアリスたちの後ろに並んでいた。

 「ヴァン〜!」
 アルマ君は少し変わっていて、なぜかヴァンさんを気に入っている。ヴァンさんの姿をみるなり手をふりスマイル0円に匹敵する笑顔を店内に振りまいた。ヴァンさんの顔が引きつっているのは気のせいではないだろう。

 取りあえず並ばなければならないので私とアルマ君は先輩たちの後ろに立つ。

 「うわ〜、こんなところで会うなんて奇遇だね!」

 ヴァンさんに敢えて嬉しそうなアルマ君。

 アラン先輩もヴァンさんもお揃いのサングラスを頭にかけていた。どんだけ仲がいいんだこいつら。

 「よ、リディア!お前もアイス食いに来たんか!」
 「久しぶりだなリディア!」
 「三日ぶりだけどね」

 アリスとアル君が私とアルマ君の存在に気付いて声をかけてきた。二人も二人で正反対の色を基調としたパンク服を決めているのに首にぶら下げているシルバーアクセサリーだとか、所々にペアルックらしきものが見える。ていうか服の色が正反対なのもここまでくると一種のペアルックにしか見えない。本当にこいつら仲がいいな。

 アラン先輩はアリスとアル君の服装にかつての黒歴史をほじくりだされているような気分を味わっているのか、二人を見ようとしない。

 「あー!!フィルにティエラじゃないか!どうして二人がここに?」
 ここにきて二人の存在に気付いたのか、アルマ君が目を丸くした。

 「今まで気づかなかったの?!」
 仮にも自分のパーティメンバーじゃないの。気付きなさいよ。

 「あ、リディアさんお久しぶりです」
 「アルマ君は二週間ぶりかな?」
 この二人はほんわかしているから見ていてとても和むのよね。学年に一組はいそうな皆から暖かい目で見守られているカップルっているでしょ?まさに二人がそうなのよね。

 「でも、なんで二人でここに?」
 「えっと、それは……」

 「いや普通に察しなさいよ」
 アルマ君の素朴な疑問に顔を紅くするティエラ氏。だからなんでアルマ君はこんなに鈍感なの?まあそこがアルマ君の可愛いところなんだけどさぁ!

 「その、僕が誘ったんだよ。オーペンフェアも開催してることだし」
 照れながら答えるフィルさん。絶対ティエラ氏と一緒に来たかっただけでしょ〜〜。そして嬉しそうにアイスを食べるティエラ氏をあわよくば拝みたいってところかな。うふふ、私にかかれば全部丸っとお見通しなんだから!!
もう、ほんと見ているこっちが恥ずかしくなるくらいの初々しさね!!幸せ全開じゃない!

 「お次のお客様〜」
 相当悩んでいたっぽい前のグループの人たちがやっと商品を受け取り、フィルさんとティエラ氏の番になった。

 「好きなの選んでね」
 「ええ?!でも、私もちゃんとお金持ってきました!」
 「いいんだ、僕が誘ったんだし奢らせてよ」
 フィルさんとティエラ氏の仲の良さっぷりを見せつけられたアリス、アル君、アラン先輩、ヴァンさんの四人の表情がみるみるうちに変わっている。闇堕ちだ。そんな、まるで親を殺されたかのような怒りの視線を向けなくても……。

 「じゃ、じゃあこれにします」
 「すみません、これ二つください」
 なんと31種類もアイスがあるのに同じのを選ぶ二人。
 「仲いいねぇ〜」
 空気を読んでいるようで読んでいないアルマ君が正直な感想を述べる。
 「お待たせしました」
 店員さんが全く同じアイスを二人に手渡す。
 「はい、ティエラの分」
 「リア充だ!爆破しろ!」
 「リア充爆発しろ〜〜〜〜」
 ティエラ氏へアイスを渡すフィルさんについに耐えられなくなった四人がブーイングを投げかけた。けど、フィルさんもティエラ氏もとっくに二人の世界に入っているのか全く気にしていない様子。
 「俺、このアイスにするけどアリスはもう決まった??」
 「えー、お前それあたしが食べようと思ってた奴なんだけど。アルと同じやつなんて癪に障るからやっぱ別のにしようっと」
 アリスもアル君も絶対名前で選んだでしょ、と言いたくなるかっこよさげなネーミングのアイスを注文した。
 「うっ、俺の黒歴史が……!」
 「アランー?!」
 アリスとアル君がさっさと注文を決めたため、アラン先輩たちの番はすぐにきた。

 「俺、これにしようと思うんだけどヴァンは決まった?」
 「やばい……!俺それとあれで迷ってるんだよ……!どうしよ、めちゃくちゃ迷う!どっちも美味しそう……!」
 「乙女か?!」
 たまに凄くヴァンさんが乙女になるときがある。今がまさにそうだ。
 「じゃあ、それとあれください」
 「アラン?!」
 「半分こずつにすれば両方食えるだろ?」
 「アラン天才かよ!」
 たまに凄くアラン先輩がかっこよく見えるときがある。全部ヴァンさんに関する時の先輩だ。

 「お待たせしました」
 「ほら、二人で食べような」
 「うん!」
 物凄く嬉しそうなヴァンさん。こいつらリア充かよ。
 「やっと私たちの番ね!待ってる間にようやく決まったわ!」
 元々何を頼むか決めていたアルマ君、待っている間に決めた私。さっさと注文して私たちはアリスとアル君が座っている席の隣のテーブルに腰を掛けた。

 「ありがとう、アル!」
 「サンキューな、アリス!」
 隣を見れば、お互いのアイスを奪い合うアリスとアル君。奪い合っているのになぜか綺麗にアイスを食べているところが凄い。
 この二人も喧嘩ばかりしているけどなんやかんやで仲がいいから見ていて飽きない。

 ていうか、先輩たちにしろアリスたちにしろ、フィルさんとティエラ氏に対して「リア充爆発しろ〜〜〜〜」だの、「リア充だ!爆破しろ!」なんて言っているけど、あんたらもには言われたくないよ、絶対。

 お前だけには言われたくないオブザイヤーに見事輝いたのはアラン先輩とヴァンさんの「リア充爆発しろ〜〜〜〜」だし、準お前だけには言われたくないオブザイヤーに輝いたのはアリスとアル君の「リア充だ!爆破しろ!」ね。

 どうもおめでとう。


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某掲示板で開催されているクソゲーオブザイヤー、毎年楽しんでいます。タイトルの元ネタは勿論これです。今年が2015年なのでタイトルに2015とつけましたが来年もやるかは分かりません。

リディアはうちの子たちのカプカーストの外でカーストを眺めているアルティメットまどか的な存在なのでリディア視点で書きました。
即興で書いた&技量不足でもっとキャラを出したかったのに出せませんでした。来年もクソカプオブザイヤーやるなら他のcpを出したいな……なんて。

あ、この小説はクソゲーオブザイヤー、並びに31アイスクリーム、ハーゲンダッツとは一切関係ありません。

Honey au Lait