▼ 9 「すごい……」 AV室にて、あんずちゃんは目を輝かせてテレビに映し出される映像に釘付けになっている。映されている映像は、私のライブDVD。私はちょっと照れつつも、横で一緒に見ていた。今日は、二人ともレッスン予定がなかったため一緒にお勉強会をすることになった。レッスンがない日が被ることなんて滅多にないため、たまに被った日にはこうやって時間を共にすることが多い。いつもは一緒にショッピングに行ったついでに気になる衣装生地を探しに出かけたり、行きたいカフェに行ったついでに次のドリフェスはどうしようかなど会議したりしていたのだけど、今日はあんずちゃんたっての希望で私のライブDVDを見ることになった。いつもはそんなに表情を見せないあんずちゃんが、嬉しそうに私のパフォーマンスを見てくれている。そんなあんずちゃんを見ていたら、最初は恥ずかしくてまともに見れなかった私も過去の宝物としてその映像を見ることが出来ていた。全てを見終えると「なまえちゃんのこと、プロデュースしたいなあ」と、ぽつりとあんずちゃんが言った。まさかそんな感想抱かれるとは思ってなかったので、思わず「職業病じゃん……」と笑ってしまった。つられて控えめに笑うあんずちゃんだったが、「でも、なまえちゃん今でもアイドルはしたいんでしょ」と確信を突かれる。そういえば、彼女にはもうばれてるんだったっけ。私は、自分の両頬に手を当てちょっとだけ悩んだ素振りをしつつ笑う。 「私も、プロデュースしてもらいたかったなあ」 あんずちゃんを見送って、私は一つのレッスンルームに向かう。ちょっと前に凛月くんから、「レッスンルームにいる」とだけメッセージが来ていたので「今から行くね」と返事をした。携帯をポケットに入れた時に再度携帯が震えたけれど、凛月くんからの返信だろうから開くことなく歩みを進めた。今日は何をしようかな。そういえば最近は歌ってばっかりでダンスはこれっきしだった。プロデュースの時に一緒に踊ることはあるけれども、ユニットに合ったダンスをしているものだから自分の好きなジャンルではないんだよなあ。Ra*bitsのとんで跳ねる可愛いダンスなんて、女だけども性に合わずよっぽどみんながやったほうが可愛くて愛らしい。その時改めて、自分には自分に合ったパフォーマンスをしたいなあと思った。凛月くんのいるというレッスンルームにたどり着き、防音室特有の思い扉を開く。「おい〜っす」と調子のいい凛月くんの声が聞こえてくる。しかし、見える人の数は2人。 「……泉くん何でいるの?」 「くまくんには了承得たよ」 「俺、なまえにメッセージ送ったじゃん〜」 「あっ、もしかして」 先ほど見ずに閉じたメッセージを開く。凛月くんからのメッセージには「セッちゃんが来たいってうるさいから連れていく」と来ていた。その内容をそっくりそのまま読み上げると、泉くんは凛月くんを鋭く睨み「うるさいってどういうことぉ?!」と怒っていた。「だってそのまんまじゃん〜」なんて言いながら凛月くんはソファに寝転がる。「嫌だった?」と聞いてくる凛月くんに「全然いいよ、泉くんにはバレちゃってるみたいだし」と言うと「だよねえ」と目を細くして笑った。つい先日、泉くんには曝け出してしまったばかりだからまあいっか。鞄を机に置いて、軽く準備運動をする。それを見た二人も各々ウォーミングアップを始める。「何するつもりなの?」と泉くんが聞いてくる。あっ、自分の世界に入り込みかけてて言うのを忘れてた。「ダンスしよう」と言うと「へえ、なまえ踊れるんだねえ」とバカにするように笑ってきた。 「失礼な、これだってストリートダンスをかじってたんだよ」 「アイドルなのにストリート?あんたは何になりたかったのぉ」 「マルチアイドル」 「演技出来ない時点でそれ無理だからぁ」 ぷつん、と何かが切れた気がした。私は泉くんの言葉を無視して音楽をかける。「あ〜あ、セッちゃん怒らせちゃった〜」と凛月くんのケタケタ笑う声が聞こえる。自分の好きな曲にして、泉くんを睨みつける。 「な、何?」 「私の好きなジャンルはロックなんだけど、出来るよねシニカル王子」 「……うっざあ」 ジャージを脱ぎ泉くんは私の目の前に立つ。どうやらやる気の様子。私は挑発的に笑い、音楽に乗れるタイミングで身体を動かす。ロックダンスは、カギをかけるように動きを止めそして動き出すことで流れを作るダンス。身体の筋肉や関節をコントロールする感覚がたまらなく楽しい。目の前で私と同じように踊る泉くんは、私の顔を見ると気分の良さそうに笑った。確か、バレエも出来るんだったっけ。本当この人はできないものがないんじゃないのかって思ってしまう。何でもできて顔も良い、それだから毒を吐かれてもうまく反論が出来なくなってしまう。さっき私がしたような挑発的な笑みを泉くんがする。何、自分の方が上手いとでも思ってるの?残念だけどこればっかりは私の方が上手いから!反抗するように泉くんにアピールするようなムーブをする。すると泉くんも挑発するような動きをしてきた。そういうところが癪に触る。もう本当に。 「うっざい!」 先日の垣間見た泉くんの優しさなんてすっかり忘れた私は、らしくもない舌打ちをして彼の口癖を真似た。それと同時に音楽は止まる。私と泉くんは息を荒げながら睨み合う。けれど泉くんは楽しそうな顔をしてくるから私も同じような顔をしているんだろう。「うわ〜二人とも顔怖い〜」といった凛月くんの言葉で私はふっと顔の強張りが緩む。「お疲れ様ー」と泉くんに笑うと、「はい、お疲れー」とさっさと水を取りに行ってしまった。かと思うと、私にペットボトルの水を投げ「水分補給くらいちゃんとしなよ」と言ってくる。こういうところがちょっと腹立つの。私はペットボトルのふたを開け、その水を一気に飲む。常温の水は、浸透するように体に染み渡った。 ← → |