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 私の目の前に並んだのは、豪華絢爛な食事だった。テーブルマナーなんてまともに学んでいない私は、ナイフとフォークを手に取ることすら躊躇ってしまう。向かい側に座る英智くんは察してくれたのか、「今日は僕だけだから気にせず食べていいよ」と微笑んだ。控えめに「いただきます」と口にし、ナイフとフォークで柔らかそうなお肉を切って口に入れる。これはグルメでは無い私でもわかる。高いお肉、美味しい。

「さて、少し真面目な話をしようか」

 食事を終え、食後のコーヒーが運ばれてくると英智くんは少し目を細めて笑う。彼の言葉に少しだけ心拍数が上がり、覚悟を決める。私の朝の憶測は全然違うものの可能性はあるし、この話は案外良いものの可能性もある。けれど、私の悪い勘は当たりやすいから気休めでしかないのだけども。「お願いします」と英智くんを見据える。彼は再び微笑み、持っていたコーヒーカップをソーサーに戻した。

「単刀直入に言おう、なまえちゃん君は、夢ノ咲に潰された」

 「潰された」その言葉は、案外すんなり受け入れることができた。心の中でやっぱりか、なんて思ってしまったからかもしれない。

「夢ノ咲のアイドル科は、知ってる通り男性アイドルに特化した学科だ。……五奇人の出来事、なまえちゃんが転科前の出来事は知っているかい?」
「聞いたことある。英智くんが何か大きなことしたって、それでアイドル科は統制されたって」
「ふふっ結構曖昧だね。まあいいさ、その出来事の詳細は特に君には関係ない。関係あるのは、その結果起きた学院の陰謀だからね。」
「策?」
「五奇人が死んだ後、活気を取り戻したアイドル科が次に成果を残すために求められたのはSSでの優勝だ。その時に学院に五奇人とは別に弊害とされるものがいたんだ。それが音楽科にいた君だ。」
「ああ、なるほど」

 やっぱり今の自分はとても冷静みたい。英智くんの言葉が頭にスッと入ってくる。アイドルとして活躍していた私は、成果を残すために必死なアイドル科にとって邪魔でしかなかったのだ。少し温くなってしまったコーヒーを口に含む。

「成果を残すために必死な学院は、私を現役から引き摺り落としてあえてプロデュース科という手の内に入れた。…当たってたりする?」
「大正解だよ。君は、こういう時は頭がキレるみたいだね。少し驚いたな」
「ヤダ、バカにしてたんだね」

 相変わらず笑顔を絶やさない英智くんを少し睨む。彼は一切動じず、少しだけ首を傾げた。泉くんだったら小言の一つや二つかけてくるのに、同い年でも全然違う。英智くんは、大人び過ぎている気がする。

「所属していた事務所も、最初は抵抗したんだ。けれど、結果的に圧力をかけられやめさせる羽目になった」
「だから、方向性が違うとか、言うことを聞かなければ辞めてもらう、なんて言われたんだ。あの時は不服だったけど、こう言われると納得できるかも」

「そして、今回の件に戻るけれど。ここまで来て分かる通り、高校中退の情報も学院の陰謀だったわけだ」

 わあ、と心も入っていない声を口に出す。改めて飲んだコーヒーはさっきより冷めていて、苦味が強く感じられた。

「木の葉を隠すなら森、何て慣用句があるだろう。学院は、君を潰したことを隠したいが為に君をプロデュース科に入れた。けれど、それだけだと話題にされるのは目に見えている。だから、学院から消えた存在として扱ったんだ」
「徹底されたわけだね」
「今回、誰かが口を滑らして世間に出てしまったみたいだけども。口を滑らした人はもちろん、もう特定されて処罰を受けているみたいだよ」
「えっ、それは」
「大丈夫、君にはあまり関わりのない人間だ。そんな愚かな人間に対して、気に病むことはないよ」

 笑う英智くんは少しだけ怖かった。彼が時折見せる怖さには少し慣れない。「以上がこれまでの君に関わる経緯だよ」と、話を終わらせる。私は、学院に邪魔だと判断され現役を引きずり落とされた。その上手の内に入れ、世の中から消すことを徹底した。転科初日の椚先生の言葉を思い出す。「アイドルの顔をするな」とは、そういう意味が含まれていたのかな。さて、と英智くんは立ち上がり私に近づく。私の横に来て、まるで人形を扱うかのように優しく頭を撫でられる。

「次は、これから君がどうしたいかを教えて欲しいな」
  

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